第47話:反攻の糸口 ~陳宮の奇策~
第47話:反攻の糸口 ~陳宮の奇策~
九原城の籠城戦が続く中、陳宮は絶望的な状況を打開するための策を練り続けていた。彼の瞳は鋭く、黒山賊の隙を探していた。黒山賊の兵力、首領たちの性格、彼らの陣形の癖。城内の限られた情報から、敵の弱点を見抜こうとする。陳宮の手は、地図の上を滑る。彼の顔には、策士としての集中力が満ちていた。
陳宮は、黒山賊が数を頼りにしていること、そして首領たちの間に不和があることを再確認した。また、彼らは籠城している並州軍を完全に包囲し、油断している部分があることにも気づいた。籠城戦が長引けば、黒山賊の兵士たちの間にも、飢えや不満が募ってくるはずだ。
陳宮の策は、黒山賊内部の不満と不信を煽り、彼らを内部から崩壊させるというものだった。彼は、城内に潜伏している黒山賊の内部の不満分子(例えば、以前の黒山賊討伐戦で捕虜となり、並州軍に保護された者など)や、城外の黒山賊の中にいる、故郷へ帰りたいと願っている者たちに、密かに連絡員を送ることを計画した。城壁からの弓に矢文を結びつけたり、夜陰に乗じて忍びの者を使ったりするなど、様々な方法を考えた。
「我々は、黒山賊内部の不満分子に、密かに接触します」陳宮は丁原と呂布に語った。「彼らに、黒山賊の首領たちが兵糧を独占している、あるいは、次の攻撃で彼らが捨て駒にされる、といった偽情報を流すのです。さらに、並州軍が外部からの援軍と連携して総攻撃を仕掛ける、といった情報を流し、彼らを動揺させるのです」陳宮の声は落ち着いていたが、その言葉には知略家の鋭い輝きがあった。
丁原は、陳宮の策に感心した。「うむ、面白い。黒山賊の首領たちは、互いを信用しておらぬ。このような情報が流れれば、必ず互いを疑い、勝手な行動を取り始めるだろう」丁原の顔に、わずかな希望が灯った。彼の声は、安堵を含んでいた。
「この策は、呂将軍の武勇を活かす機会も生み出すでしょう」陳宮は呂布を見た。「黒山賊が混乱した隙に、城壁の上から、あるいは城門を開けて奇襲を仕掛けるのです。呂将軍の圧倒的な武勇が、彼らの混乱に追い打ちをかけ、指揮系統を完全に麻痺させる」陳宮の声には、呂布の武勇への絶対的な信頼が込められていた。
呂布は、頷いた。籠城戦の歯がゆさから解放される。再び戦場で武勇を振るう機会を得た喜びが、彼の心に満ちた。虎牢関で溜めた力が、今、故郷を救うために解き放たれる時が来たのだ。彼は陳宮に全幅の信頼を置いた。「承知した。この奉先が、血路を開こう」呂布の声は、並州の大地のように固く、決意に満ちていた。彼の全身から、並外れた気迫が迸る。方天戟の手触りを確かめる。冷たい金属の手触り。
城内では、三人の娘たちと貂蝉が、城壁の外の状況の変化を感じ取っていた。以前のような猛烈な攻撃ではなく、黒山賊の怒号や攻城兵器の音が、どこか混乱しているように聞こえる。城内の空気も、以前よりはわずかに明るくなっていた。
「どうしたの? 何か変わったの?」華が、首を傾げた。彼女の小さな顔には、困惑と、そしてかすかな希望が浮かんでいた。
貂蝉は、娘たちを抱き寄せた。彼女の顔に、かすかな希望の光が灯っていた。「きっと、陳宮様が、策を立ててくださったのでしょう」彼女の手触りは温かく、娘たちを安心させた。彼女の瞳は、希望を映していた。
呂布は、陳宮と共に、反攻の機会を窺っていた。黒山賊が十分に動揺し、統率が取れなくなった時。それが、反攻の狼煙を上げる時だ。呂布の目は鋭く、虎牢関で培われた戦場の感覚が研ぎ澄まされていた。虎牢関で感じた、勝利の達成感。再びそれを味わう時が来るかもしれない。城内の馬舎から聞こえてくる、赤兎馬の嘶き。赤兎馬も、主の戦意を感じ取っているかのようだった。
陳宮の采配が、絶望的な籠城戦に、逆転の可能性をもたらした。黒山賊は、自らの弱点である不和によって、内部から崩壊し始めていた。並州の危機は、まだ去っていない。しかし、救いの光は、確かに灯されたのだ。




