表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/65

第43話:賢者の光 ~陳宮の才覚~

第43話:賢者の光 ~陳宮の才覚~


並州は絶体絶命の危機に瀕していた。黒山賊の大軍が并州を蹂躙し、并州軍の残兵は九原城に籠城するのが精一杯だった。食料は乏しく、援軍の望みもない。城内は、恐怖と絶望、そして飢えの匂いが充満していた。


丁原と呂布は、太守府で陳宮と共に軍議を開いていた。陳宮は、並州の惨状と、黒山賊の兵力、そして残された并州軍の状況を冷静に分析していた。彼の声は落ち着いていたが、その言葉からは厳しい現実が突きつけられた。


「黒山賊は、五万を超える兵力で並州全土を覆っています。一方、九原城に残された兵は、全て合わせても一万に満たぬでしょう。さらに、彼らは疲弊しきっており、士気も低い。正面からの戦いでは、勝ち目は薄いと言わざるを得ません」陳宮の言葉は、冷徹な真実だった。


丁原の顔に、深い苦悩が刻まれた。「このままでは、九原もいつまで持つか…並州は、我々の故郷は、滅んでしまうのか…」彼の声は、かすれていた。


呂布は、拳を握りしめた。虎牢関で董卓軍を打ち破った自身の武勇をもってしても、この数の暴力の前には無力なのか。彼の心に、焦りと苛立ちが募る。並州の民の顔が、彼の心に浮かんだ。そして、三人の娘たちの顔。彼女たちを、再び危険に晒すわけにはいかない。鎧の金属が、彼の拳で軋む音がした。


陳宮は、二人の様子を見て、静かに言った。「しかし、まだ策はございます」陳宮の声には、かすかな希望の色が宿っていた。彼の瞳の奥には、勝利への道筋が見えているかのようだった。


丁原と呂布は、陳宮の言葉に、わずかに希望の光を見出した。


「策とは、何か?」丁原が尋ねた。


陳宮は、地図を広げた。「黒山賊は、確かに数が多い。しかし、彼らは寄せ集めの集団です。統率は必ずしも取れていない。特に、首領である張燕、于毒、白波賊(黒山賊の一部)の郭大賢や楊奉といった者たちの間には、意見の対立や、互いへの不信感があるはずです。彼らを分断し、個別に撃破する。そして、彼らの兵糧や補給線を断つ。さらに、虎牢関で呂将軍が示した圧倒的な武勇、そして我々が『義』の旗を掲げていることを最大限に利用し、黒山賊内部に動揺と離反を促すのです」


陳宮の言葉は、論理的で、具体的だった。彼の知略は、並州の置かれた絶望的な状況に、一筋の光をもたらした。単なる武力に頼るのではない、敵の弱点をつく巧みな戦略。それは、呂布が虎牢関で蛇眼と戦った時に感じた、知略の重要性を改めて彼に認識させた。


「黒山賊の兵士たちの中にも、無理やり従わされている者、飢えに苦しんでいる者がいるはずです。彼らに、我々が『義』の旗の下に戦っていること、そして、降伏すれば命は助け、食料を与え、故郷へ帰らせることを伝えるのです。黒山賊の内部から崩壊を促すのです」陳宮の声には、知略家の冷静さと、そして民を思う心が混じっていた。


丁原は、陳宮の策に深く感銘した。「うむ! 見事だ、陳宮! お前の知略こそ、今の並州には不可欠だ!」丁原は、陳宮の手を握った。その手は温かく、信頼に満ちていた。


呂布もまた、陳宮の策に希望を見出した。彼の武勇を最大限に活かし、そして自身の「義」をもって敵を打ち破る。それは、彼が虎牢関で得た教訓に基づいた戦い方だった。


「陳宮殿、この奉先、貴殿の策の通りに動きます。貴殿の知略と、この奉先の武勇、そして並州軍の『義』で、必ずや黒山賊を並州から叩き出してみせましょう」呂布の声は、並州の大地のように固く、決意に満ちていた。


陳宮は、呂布の言葉を聞き、静かに頷いた。彼の顔に、信頼に満ちた笑みが浮かんだ。彼は、呂布という男の器量、そしてその「義」の精神に、乱世を終わらせる可能性を感じていたのだ。


こうして、陳宮は並州軍の軍師として、黒山賊撃退のための具体的な作戦指揮を執ることになった。彼の賢者の光が、絶望に沈む並州を照らし始めた。呂布軍は、陳宮の知略、呂布の武勇、丁原の仁義、そして張遼、高順、厳続といった仲間たちの力によって、再起への一歩を踏み出す。黒山賊撃退に向けた、並州の新たな戦いが、今、始まろうとしていた。城内に満ちていた恐怖の匂いが、かすかな希望の匂いに変わる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ