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第22話:鬼神、赤兎と舞う ~董卓軍を圧倒~

第22話:鬼神、赤兎と舞う ~董卓軍を圧倒~


洛陽の街は、既に地獄絵図と化していた。董卓軍の兵士たちは、屋敷を襲撃するだけでなく、洛陽の街中で無差別に略奪や殺戮を行っていた。彼らは、董卓の命令を笠に着て、民を苦しめることに何の躊躇もなかった。街を覆う炎、人々の悲鳴、そして董卓軍の兵士たちの哄笑。焼ける建物の匂い、血の匂い、そして恐怖の匂い。熱波が街を包み込む。焼ける音、叫ぶ音。


丁原と呂布の一行は、洛陽からの脱出を目指していたが、董卓軍の波に飲み込まれそうになっていた。並州から連れてきた兵は少なく、市街地という不慣れな場所での戦いは困難を極めた。瓦礫が道を塞ぐ。張遼、高順、厳続といった将も奮戦するが、敵の数は圧倒的で、次々と仲間が倒れていく。鎧が地面に叩きつけられる重い音、断末魔の叫び。血の匂いが濃くなる。鉄の匂いと血の匂いが混じり合う。


このままでは、全員が董卓軍の餌食となってしまう。丁原も、陳宮も、そして娘たちも。呂布は、父と娘たちの顔を思い浮かべた。彼が守ると誓った存在。李儒の誘惑を断ち切る力となった、彼の「義」の根源。彼女たちの無邪気な笑顔、小さな手の温もり、華の甘える声。暁の聡明な瞳、飛燕の活発な笑い声。彼らが危険に晒されることだけは、断じて許せない。娘たちの小さな体が震えるのを想像し、呂布の力はさらに増したかのようだった。彼女たちの小さな手の温もりを思い出し、呂布の拳は固く握られた。


呂布は、赤兎馬に跨った。赤兎馬の息遣いが荒くなる。馬もまた、主の怒りと決意を感じ取っているかのようだった。赤兎馬の体温が、呂布の体に伝わる。呂布は、方天戟を高く掲げた。彼の全身から、並外れた気迫が迸る。その気迫は、周囲の董卓軍兵士たちを震え上がらせた。彼の目に、怒りの炎が宿っていた。その怒りは、董卓という存在に向けられていた。それは、燃える炎の色に似ていた。


「我は呂布奉先なり! 道を開けよ、愚か者どもが!」


呂布の咆哮が、戦場の喧騒を切り裂いた。その声は、大地を揺るがす雷鳴のように響き渡り、董卓軍の兵士たちの心を凍り付かせた。そして、彼は赤兎馬を駆り、董卓軍の最も兵が密集している場所目掛けて、一直線に突撃した。


赤兎馬の速さは、もはや伝説そのものであった。炎上する洛陽の街を、赤兎馬は風のように駆け抜ける。瓦礫を飛び越え、炎の間を縫う。熱波が顔を焼く。焼ける匂い。董卓軍の兵士たちは、呂布の姿を目で追うことさえできない。まるで赤い稲妻が走り抜けていくかのようだった。馬蹄の音は、他の全ての音にかき消されるかのようだった。


呂布は、方天戟を振るった。その一撃は、山をも砕くかのような破壊力を持っていた。董卓軍の兵士たちは、鎧ごと吹き飛ばされ、肉塊となって地面に叩きつけられる。彼の周囲だけ、空間が歪むかのような異様な光景が広がった。数えきれないほどの兵士が、呂布のただ一撃によって倒されていく。金属が悲鳴を上げる音、肉が断たれる音、そして絶叫。血しぶきが舞い、地面を赤く染める。血の雨が降る。血の匂いは、焼ける匂いと混じり合う。


呂布は、赤兎馬と一体となり、洛陽の街を「舞う」ように駆け巡った。董卓軍の陣形は、彼の突撃の前に次々と崩壊していく。指揮官たちは混乱し、兵士たちは逃げ惑った。彼らは、もはや人間と戦っているのではない。鬼神、あるいは破壊の権現と戦っているのだ、と感じていた。呂布の赤い鎧は、血に染まり、炎の色と重なって、さらに恐ろしく見えた。彼の咆哮は、戦場の阿鼻叫喚を圧倒した。それは、怒りと悲しみ、そして決意の咆哮だった。


張遼、高順、厳続らは、呂布が切り開いた道を追った。彼らは呂布の圧倒的な武勇を間近で見て、改めて畏敬の念を抱いた。彼らは知っていた。呂布がいてくれるからこそ、自分たちは生き延びられるのだと。彼らの剣戟の音、叫び声も、呂布の咆哮にかき消されるかのようだった。彼らの鎧の手触りも、血で滑りやすくなっていた。彼らの顔は、疲労困憊だったが、目は呂布への信頼で輝いていた。


しかし、董卓軍の数はあまりにも多い。呂布がどれだけ敵を倒しても、後から後から新たな兵士が押し寄せてくる。彼の武勇をもってしても、この圧倒的な兵力差を完全に覆すことはできない。体力も、少しずつ消耗していく。息遣いが荒くなり、鎧の重さが体に食い込む。赤兎馬も、疲れを見せ始めていた。その肌からは、熱と汗の匂いがした。


それでも、呂布は立ち止まらなかった。父と娘たちを守るため。洛陽の民を苦しみから救うため。彼の心にある「義」が、彼を突き動かした。彼は、燃え盛る洛陽の街を、血に染まった大地を、赤兎馬と共に駆け巡った。彼の存在そのものが、董卓軍にとっての悪夢であり、丁原軍にとっての希望だった。洛陽の街は、呂布という「鬼神」の舞によって、剣と血の色にさらに深く染まっていった。彼の咆哮は、炎上する都の空に響き渡った。それは、怒りと悲しみ、そして決意の咆哮だった。その響きは、遠く娘たちの耳に届いたかもしれない。

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