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第21話:洛陽、剣に染まる ~血の応酬~

第21話:洛陽、剣に染まる ~血の応酬~


丁原暗殺計画の失敗は、董卓を激怒させた。彼は、自身の腹心である李儒の懐柔策も、刺客による暗殺計画も、呂布という一人の男の「忠義」によって阻まれたことに、深い侮辱を感じた。董卓は、もはや丁原と呂布を生かしておくわけにはいかないと決意した。彼の顔は、怒りで真っ赤になり、血管が浮き上がっていた。彼の咆哮は、洛陽の宮殿に響き渡り、帝都を震わせた。


董卓は、洛陽に駐屯する自身の軍勢を動員し、丁原と呂布の屋敷を攻撃することを命じた。それは、帝都における公然たる武力行使であり、漢王朝の権威を完全に踏みにじる行為だった。彼の声は、暴力そのものだった。


洛陽の街に、戦いの気配が満ちた。董卓軍の兵士たちが、街中に展開し、通りを行き交う人々は恐怖に震え上がった。彼らの顔からは、血の気が失せていた。悲鳴が響く。兵士たちの鎧の金属が擦れる音、彼らが叫ぶ声、そしてそれに怯える民の悲鳴。街を覆う空気は、一瞬にして血腥いものへと変わった。鉄の匂いと血の匂いが、風に乗って運ばれてくる。


丁原と呂布は、董卓の攻撃を知り、屋敷で迎え撃つ準備を整えた。並州から連れてきたわずかな兵力では、董卓の数十万の兵力に正面から敵うはずもない。しかし、彼らは逃げるわけにはいなかった。彼らは、丁原の「義」を守るためにここにいるのだ。並州の兵士たちの顔には、主君への忠誠と、故郷を遠く離れた場所での戦いへの覚悟が入り混じっていた。彼らの鎧の手触りは冷たいが、その心は熱かった。


陳宮は、冷静に状況を分析した。「董卓は数に任せて押し寄せてくるでしょう。屋敷を防衛するのは不可能。ここは屋敷を出て、洛陽の街を戦場とし、混乱に乗じて脱出を図るしかありません」陳宮の声は落ち着いていたが、その言葉には、絶望的な状況での最善策を選択するという重みがあった。彼の瞳の奥には、厳しい現実が映っていた。


丁原は頷いた。「うむ、承知した。陳宮、作戦指揮は任せる。奉先、お前は我々の剣となり、道を切り開け」丁原の顔に、漢臣としての悲壮な覚悟が刻まれた。洛陽という帝都が戦場になる。それは、彼が最も見たくなかった光景だった。彼の握りしめた拳が震える。


呂布は、赤兎馬に跨った。真紅の毛並みが、洛陽の朝日に照らされて燃えるように輝く。馬の息遣いが荒くなる。方天戟を手に、彼は屋敷の門の前に立った。彼の顔は、決意に満ちていた。張遼、高順、厳続といった部下たちも、それぞれの部隊を率いて、呂布の傍らに控える。彼らの顔には、緊張と、主君への絶対的な忠誠が刻まれていた。彼らの鎧の手触りは、冷たかったが、その内に秘めた熱意は燃えるようだった。彼らの目には、死を恐れぬ決意が宿っていた。


三姉妹は、屋敷の奥で、使用人たちに守られていた。外から聞こえてくる喧騒に、彼女たちは怯えていた。鎧の金属音、男たちの怒号、そして悲鳴。彼女たちの小さな手は、互いの手を固く握りしめ、父や祖父の無事を祈っていた。彼女たちの震える体が、互いの温もりを求め合う。華は恐怖で泣き出しそうだった。彼女の小さな体が震える。


董卓軍の兵士たちが、屋敷目掛けて押し寄せてきた。数えきれないほどの兵士たちの波。彼らの上げる鬨の声が、大地を揺るがす。その声は、恐怖を掻き立てた。彼らの纏う、汗と埃、そして殺意の匂い。董卓軍の兵士たちの顔には、獲物を捕らえるかのような貪欲な輝きがあった。彼らの目は血走っていた。


屋敷の門が開かれ、呂布が最初に飛び出した。赤兎馬の嘶きが、戦場の開始を告げる合図となった。その嘶きは、董卓軍の兵士たちの心臓を鷲掴みにした。呂布は、董卓軍の兵士たちの波の中へ、迷いなく突入した。彼の心にあるのは、父への忠義、仲間への信義、そして愛する家族への情だった。娘たちの笑顔が、彼の心に浮かんだ。


呂布の武勇は、もはや人間の領域を超えていた。赤兎馬の並外れた速さと、呂布の絶技が一体となり、董卓軍の陣形を文字通り切り裂いていく。方天戟を振るうたびに、数十、数百の兵士が倒れていく。金属が鎧を断つ音、肉が裂ける音、そして断末魔の悲鳴。血しぶきが舞い、洛陽の街は瞬く間に血に染まる。街の地面の石の手触りも、血で濡れ、滑りやすくなっていた。鉄の匂いと血の匂いが混じり合う。


董卓軍の兵士たちは、呂布の姿を見て、恐怖に震え上がった。彼らは、「人中の呂布」に、「馬中の赤兎」という伝説が、新たに加わったことを、身をもって体験したのだ。彼らの間に、動揺が広がる。ざわめき、そして怯え。しかし、董卓軍は数が圧倒的に多い。呂布が一部隊を突破しても、別の部隊が次々と押し寄せてくる。


洛陽の街は、戦場と化した。かつて華やかだった通りは、剣戟の音、叫び声、そして建物の倒壊する音で満たされた。逃げ惑う民、燃え上がる家屋。都の空は、黒煙で覆われた。華やかな香の匂いは、焼ける匂いと血の匂いに取って代わられた。焼ける木材の匂い、焦げ臭い匂い。炎の熱が、顔を焼く。


丁原軍は、呂布が切り開いた道を進み、洛陽からの脱出を目指した。張遼、高順、厳続といった将軍たちも、それぞれ部隊を率いて奮戦する。彼らは、呂布の武勇を信じ、彼についていく。彼らの鎧の金属は冷たいが、その心は熱かった。しかし、敵の数は圧倒的であり、丁原軍も損害を出しながらの撤退となった。高順率いる陥陣営は、殿を務め、決死の覚悟で敵の追撃を食い止める。彼らの顔は血に染まっていたが、目は決意に燃えていた。彼らの纏う空気は、死を恐れぬ覚悟の匂いがした。


洛陽の街は、董卓の非道な命令、そして戦闘によって破壊されていく。歴史と文化の中心であった帝都が、剣と炎に染まっていく。その悲惨な光景を、呂布は戦いながらも目の当たりにした。彼の怒りは、董卓という存在に向けられた。この悪党が、ここまで民と都を苦しめているのだ。乱世を終わらせなければならない、という思いが、呂布の心に強く刻まれた。彼は、方天戟を振るう手に、さらに力を込めた。


帝都洛陽は、今、血の応酬の中で、その光を失いつつあった。丁原軍は、絶望的な状況の中、洛陽からの脱出を試みる。彼らの前には、董卓軍の圧倒的な力が立ち塞がる。呂布の武勇をもってしても、この状況を完全に覆すことはできない。洛陽からの撤退戦は、壮絶なものとなった。彼らの心には、悲壮な決意と、かすかな希望が入り混じっていた。

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