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第18話:王允の策謀 ~董卓を討つ計~

第18話:王允の策謀 ~董卓を討つ計~


呂布が貂蝉と再会し、彼女への情に心を乱されている頃、都の司徒・王允の屋敷では、董卓打倒に向けた密かな企みが進められていた。王允は、漢王朝への深い忠誠心を持つ老臣であった。彼は董卓の専横を憎み、漢室の危機を救うためならば、いかなる手段も厭わない覚悟を持っていた。彼の瞳には、漢室への深い思いと、董卓への激しい憎悪が宿っていた。


王允は、自身の屋敷にいる養女、貂蝉の比類なき美しさに目をつけた。それは、天下を傾かせると言われるほどの、恐ろしいまでの美しさだった。触れることもできない、霞のような、あるいは光そのもののような美しさ。そして、並州から来た丁原の養子、呂布の天下無双の武勇にも注目していた。王允は、この二つの存在を利用し、董卓と呂布という、当時の天下で最も強力な「力」を持つ者たちの間を裂き、互いを争わせ、両方を滅ぼす、あるいは弱体化させるための計略を練り始めた。それは、武力ではなく、人の心と美しさを利用した、巧妙かつ残酷な計略だった。


王允は貂蝉を呼び寄せた。貂蝉は、王允の養女として、彼の恩義を深く感じていた。王允は彼女に、漢王朝の現状、董卓の悪行、そして民の苦しみを涙ながらに語った。そして、自身の董卓打倒という大望を明かした。王允の声は、老いながらも力強く、漢室への深い思いが込められていた。彼の手は震えていたが、それは決意の震えだった。


「貂蝉よ」王允は言った。「お前は、天がこの乱世に遣わした、比類なき美しさを持っている。その美しさが、漢王朝を救う力となるかもしれぬのだ」王允の目は、希望と同時に、深い悲しみを宿していた。彼は、愛する養女を危険な企みに巻き込まなければならないことに、心を痛めていた。彼の声は、苦渋に満ちていた。


貂蝉は、王允の言葉を聞き、自身の運命を悟った。彼女は、自身の美しさが、乱世の武器となりうることを理解していた。そして、恩ある養父の大望のためならば、いかなる犠牲も厭わない覚悟を決めた。彼女の瞳には、悲しみだけでなく、強い意志の光が宿った。その光は、彼女の美しさを一層際立たせた。彼女の纏う絹の衣装の手触りは、彼女の覚悟の固さを示すかのように感じられた。彼女の体からは、微かに香の匂いがしたが、それは彼女自身の決意の匂いでもあった。


「父上様」貂蝉は静かに言った。「この身、父上様と漢王朝のために、いかようにもお使いくださいませ」彼女の声は、優しく、しかし決意に満ちていた。その声の響きは、澄んでいた。


王允は、貂蝉の覚悟に涙した。「おお、貂蝉! なんと孝心な娘か!」彼は、貂蝉に具体的な計画を語り始めた。董卓と呂布という、当時の天下で最も恐れられる二人の猛者の心をそれぞれ掴み、互いを憎み合わせ、争わせて滅ぼす方法。それは、貂蝉という美しい女性の魅力を最大限に利用した、巧妙かつ残酷な計略だった。董卓には貂蝉を寵愛させ、呂布には彼女への情を抱かせる。そして、貂蝉が両者の間で巧みに振る舞うことで、互いに貂蝉を巡って憎しみを募らせていく。


王允は、呂布が丁原に忠実であることを知っていた。しかし、呂布が単なる武骨者ではなく、人情を解する青年であることも見抜いていた。特に、呂布が貂蝉の美しさと、彼女の瞳に宿る悲しみに心を奪われたらしいという情報を得ていた。王允は、呂布の「忠義」という堅固な壁をどう打ち破るか、その鍵が貂蝉であると考えたのだ。彼は、呂布が娘たちを大切にしていることも知っていたが、肉親への情こそ、他の何よりも人の心を動かすと信じていた。


「呂布は、丁原に深く忠誠を誓っておる。しかし、彼は純粋で、情に厚い男でもある。そして、彼は並外れた武勇を持つがゆえに、強烈な憧れと、同時に孤独を抱えているはずだ。お前のような美しい女性が、彼の孤独を癒やし、彼に情を示すことで、彼の心を掴むのだ。そして、董卓にも近づき、彼を魅了する」王允は言った。「お前の美しさと、演技力、そして彼らに対する愛情を示すことで、彼らの心を操るのだ」王允の声には、冷たい計算の色が混じっていた。


貂蝉は、複雑な思いで王允の言葉を聞いていた。呂布という男。庭園で再会した、あの純粋な瞳を持つ男。一度見かけただけの、しかしその圧倒的な武勇と、噂では、娘たちに見せる温かい眼差しを持つその男に心を惹かれた。そして、自身の美しさに心を奪われたとも思われる男。彼を、自らの手で陥れるというのか。彼女の心には、王允への恩義と、呂布への微かな情、そして自身の運命に対する悲しみが入り混じっていた。彼女の指先は冷たかった。それは、これから演じなければならない計略の冷酷さを感じさせていた。彼女の纏う香の匂いが、部屋の空気を重くしていた。


王允の「董卓を討つ計」は、呂布と董卓、そして貂蝉という、三人の運命を複雑に絡み合わせ始める。貂蝉は、自らの美しさを武器に、乱世の表舞台に立たされることになった。彼女の心には、悲しみと同時に、自身の運命に立ち向かう覚悟が宿っていた。そして、この計画が、呂布の「忠義」と「義」、父子の絆という、王允も予想だにしなかった強固な壁に、どのようにぶつかることになるのか。王允の部屋には、策略の匂いと、悲壮な覚悟の空気が漂っていた。それは、帝都の闇の中で動き出した、恐ろしい物語の始まりだった。

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