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新たな出会い


「はぁ~…緊張した……」

「あははっ、大丈夫だと言ったでしょう?」


教室の隅で息を吐くと、窓枠に腰かけたアザリアはケラケラと笑った。


結局アザリアが誰かに見つかることはなかった。

真昼間からローブという変わった服装をしているが、通学路でも学園内でも誰にも何も言われなかった。

現にこうして教室の中でも自由に過ごしている。


「それにしても、あの男酷いですね」

「え?…ああ、カイウスのこと?」


アザリアの視線を追うとそこには相変わらず女性に囲まれているカイウスがいた。


「あの人間、魔女様の婚約者でしょう?それなのにわざわざ魔女様の目の前で他の生物とあんなに親しげにするなんて考えられません」

「他の生物って言い方よ」

「僕たちは性別や種族とは関係なく婚姻を結ぶことができるのです。ですから自然と『他の生物』呼びが王道になりますね」

「へぇ~、人間と全然違うんだね」


全く知らない世界の話だから聞いていて面白い。

どうせ誰も話しかけてこないのだから、と外を見るふりをしてアザリアと小声で会話する。


「僕はずっと魔女様のことを見ていたので知っていますよ。あの人間が魔女様を不快な気持ちにさせていた元凶でしょう?」

「……ずっと見てたの?」

「はい。僕たちは魔女の才能がある人間を見つけると、その才能が開花するまでずっと傍で待ってるのです。開花するまでは僕たちから干渉することが禁止されているので見守って開花の瞬間を待っています。……しかし、ほとんどの人間は開花しないまま死んでしまいますけどね」


アザリアは悲しげに目を伏せた。

きっと何人もの魔女になれなかった人間を看取って来たのだろう。

長い間見守って、最後までたった一度も見向きもされない気持ちはどれほどのものなのか。


…現にこうしてカイウスに見向きもされない私と同じ気持ちだったのだろうか。


その表情の真意は始業の鐘に遮られて聞くことが出来なかった。







その日の昼、「割れた窓の場所に行きたいです」とアザリアが言い出した。

断る理由もないし、私も気になっていたから二つ返事で了承した。


割れた場所に行くと、すでに破片は綺麗に片づけられていた。


「ここですね」

「分かるの?」

「魔女様の魔力の渦がまだ残っていますから分かりますよ」

「……見えない」

「段々見えるようになるから大丈夫ですよ」


そう言うとアザリアは私の両目を後ろから両手で覆い隠した。

急に何も見えなくなってしまい固まっていると、耳元で囁かれる。


「魔女様、少しやってみましょうか」

「な、何を…?」

「大きく息を吸って、空気が全身に巡るようにしてみてください。指先やつま先まで意識してくださいね」


分からないが言われた通りにやってみる。

すると体が何となく軽くなると同時に左手首が急速に熱くなる。


「ねぇ、これ大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。あとは僕を信じて目を開けてください」


目を覆っていた両手が離れたのを感じる。

若干緊張しながら目を開けると同時に、目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。



楽しげに歌う小さな生物

空を駆ける半透明の馬のような生物

じゃれるように草木を揺らす光の粒子

こちらの様子を伺うように隠れている羽の生えた人間のような生物



それら全てが当たり前のようにそこにいた。


「魔女様がいらっしゃったわよ~」

「強くて若い16歳の魔女様のお出ましよ~」

「私たちの奇跡が生きているわ~」


小さな生き物はくるくると宙を舞いながら歌っている。


「綺麗…」

「魔女様、彼女たちは妖精と呼ばれる生き物です」


アザリアは1人(?)の妖精に手招きをした。

するとすぐに近くに飛んできてくれた。

近くで見ると、妖精は光の粒子のようなものを纏っていることが分かった。


「あら、アザリアさんじゃない~。久しぶりね~」

「お久しぶりです。魔女様の適応力が高く、すでに貴女方のことが見えるので折角ならご挨拶をしていただこうかと思いまして」


アザリアの言葉に妖精はきょとんとすると私を見た。

どんな風に対応すればいいか分からないため、とりあえず小さく会釈をする。

すると、妖精は慌てた様に高く飛び上がった。

それからブンブン飛び回ると再び目の前に戻ってきた。


「待って待って待って!!!!魔女様、私たちのことが見えるの!?!?!?」

「え、あ、…はい」

「ちょっとーーーー!!!聞いてないんだけどーーーーーー!!!」


あまりの動揺振りに思わずアザリアの後ろに隠れてしまう。

何かやらかしてしまったのだろうか。


「魔女様、大丈夫ですよ」

「え、でも…」

「これは僕が悪かったですね。実は先ほどの動作は、魔力を使う練習を兼ねたものだったのです。まさか成功するとは思わず、僕も驚きました」

「成功したから妖精が見えるようになった、っていうこと?」

「その通りです」


そんな会話をしている間にも妖精は困惑した様子で飛び回っている。

なんだか申し訳なくなって来たので、逃げたい気持ちを抑えて声をかけることにした。


「あの、ごめんなさい。何か問題でもありましたか?」

「え!?あ、いや……」

「えっと……?」

「……少しお話をしましょうか」


見かねたアザリアの提案に私たちは頷くことしかできなかった。


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