少しずつ前を向く
「んぅ…」
なんだか幸せな夢を見た気がする。
誰かがずっと傍にいて私のことを必要としてくれるような、そんな幸せな夢。
「おはようございます魔女様、よく眠れましたか?」
頭上から降ってくる心地よい声に掠れた声が漏れる。
顔を上げると、にこにこと眩しい程の笑顔で笑うアザリアがいた。
つられて私も笑ってしまう。
「おはよう、アザリア」
「寝顔も愛らしいですが、やはり魔女様は笑ってるお顔が1番可愛いですね」
アザリアは私をぎゅーっと抱きしめてくる。
朝からスキンシップが激しいなと思いつつも、私も抱きしめ返した。
「………夢じゃなかったんだ」
「夢だと思っていたのですか?」
「だって、魔女なんて、…待って、そもそも魔女って何?」
昨日はテンションが上がって気に留めていなかったが、今になれば疑問点はいくつもある。
そもそも魔女とは何か
あと魔術とは何なのか
アザリアは何で魔女を探していたのか
人間のいない国とはどこにあるのか
考え出せば疑問は尽きない。
何も知らないし、よくよく考えれば流されていた気がする。
「魔女というのは、簡単に言うと魔術を扱える人間のことです。魔女は僕たち人外からすると奇跡の存在で、僕たちは魔女を守るため、そして愛するために生きているのです」
「でも私、魔術なんて使えないよ?」
「何をおっしゃっているのですか。昨日のお昼、魔術で窓ガラスを割っていたでしょう」
クスクスと笑うアザリアは私を見た。
その笑顔はいたずらっ子のそれだ。
「本来は魔力を魔術に変換するのですが魔女様は強い魔力の塊をそのまま放出しました。その影響で窓ガラスが割れたのです。そのようなことはなかなかできることではありません!魔力をそのまま放出して影響を及ぼすなんて聞いたことがありませんから!」
興奮した様子のアザリアの話をどこか他人事のように聞いてしまう。
私にそんな能力があるなんて今でも信じられない。
呆然としていると、我に返ったアザリアは私を安心させるようにふにゃりと笑った。
「ですが、すぐに理解するのは難しいと思うのでゆっくりで構いませんよ。何度でも説明しますし、慌てないでください」
「…アザリアって優しいのね」
「そんなことないですよ。僕は魔女様を支えたいだけですから」
アザリアの言葉に安心感を覚える。
本当はこのままベッドの中で談笑していたいのだが、学園に行かないといけない。
体を起こすと、不思議そうな顔をしつつアザリアも起きてくれた。
「学園に行くのですか?」
「うん、そろそろ起きないと間に合わないもん」
「では僕もついていきます」
「嬉しいけれど、学園には関係者以外入れないよ」
「大丈夫です。猫やカラスの姿にならない限り人間は僕のことを視認できませんので」
そんな言葉と共にアザリアはベッドから降りた。
どう見ても私の目には映っているのだが、本当に見えないのだろうか。
「魔女様だって僕がずっと傍にいたことに気づかなかったでしょう?」
私の不安を感じ取ったのか、アザリアはそう言った。
魔女としての能力が開花する前は他の人間と同じ視界だったということなのだろうか。
「ほら、大丈夫ですから支度しましょう。遅れてしまいますよ」
アザリアの言葉に我に返り、着替えを済ませて鞄を持つ。
いつもなら憂鬱な学園が今日は少し楽しみだ。
「じゃあ行こうか」
「はい!」
家の鍵を閉める前、何となく呟いた。
「行ってきます」
それはずっと言えていなかった言葉だった。