異様な雰囲気
翌朝、しっかり眠って体力を回復した私はアザリアと共に学園に向かっていた。
昨日、アザリアは「噂に関しては安心してほしい」と言っていたが不安なものは不安だ。
思わずため息を吐くと隣のアザリアが首を傾げた。
「どうされました?」
「…何でもないわよ」
「……ああ、そういうことですか。大丈夫ですよ、魔女様」
「何のことかよく分かったわね。…アザリアはそう言ってくれるけど不安なものは不安なのよ」
そんな話をしているといつの間にか学園の前に着いた。
覚悟を決めて校舎に入る。
「な、何この空気…」
入って真っ先に感じたのは異様なほどの浮ついた空気。
こんな空気、年に何度かあるダンスパーティーの時にしか感じたことが無い。
いや、それ以上の空気である。
「魔女様、大丈夫ですか?」
「…この空気に限界を感じるから中庭に逃げたいんだけどいい?」
「分かりました。では鞄だけでも教室に持っていきましょうか?」
「いいの?ありがとう」
一刻も早く中庭に逃げたいため、鞄をアザリアに預けて中庭に回る。
喧騒が遠のいたことに安心感を覚えると共に、鞄を置きに行ってくれたアザリアに申し訳なさを感じる。
「あら~?魔女様じゃないですか~」
「…おはよう」
「どうされたんですか~?朝からお疲れなようですけど~」
朝からげっそりとしている私を心配してか、妖精が近づいてきてくれた。
魔女という存在に段々とではあるが慣れてくれた妖精は、本来の癖である語尾を伸ばした話し方で気軽に話しかけてくれるようになっていた。
「なぜか知らないけれど皆が浮ついているのよ」
「あらあら~。アザリアさんから何も聞いていないのですか~?」
妖精はきょとんとした顔で首を傾げた。
全く聞き覚えのない話に私も首を傾げる。
「どういう事?」
「あ~ら、そういえば口止めされていたわね~」
しまった、とばかりに口を閉じてしまう妖精を捕まえようと静かに立ち上がる。
「何のことか教えてくれない?」
「ダメですよ~。アザリアさんから口止めされているんですから~」
自由に飛びながらもしっかり逃げる妖精を必死に追いかけるもすばしっこく逃げられてしまう。
魔術を使いたいのだがそこまで精度が高くないし、そもそも妖精を傷つけたくないから加減が難しい。
しばらく格闘していると予鈴が聞こえた。
いつの間にかそんな時間だったらしい。
「ほ、ほら、始業の時間ではありませんか~!?」
「……続きは昼休みにね」
「ご勘弁を~!!!」
息を切らしながら妖精を見上げると怯えるように逃げられてしまった。
こちらも時間が来てしまったため、渋々ではあるものの教室に向かった。