3.ピリオド
朝、僕は重いまぶたを無理やり開けた。
頭がぼんやりして、昨日のことが現実だったのか夢だったのか、一瞬わからなくなった。
でも、すぐにそれが現実だったことを思い出して、胸がズシンと重くなる。
ヒカリに告白した。
そして振られた。
それはもうどうしようもない事実だった。
彼女の「紫」が頭の中に焼き付いて離れない。
僕が期待していた「赤」は最後まで現れなかった。
いや、そもそもそんなものは初めから存在しなかったんだ。
彼女にとって僕は、やっぱりただの友達――
それも、今や「同情」を持たれる存在になってしまった。
旅館の部屋の中、ヒカリはまだいつものように元気だった。
朝の光の中で、彼女は無邪気に準備をしている。
昨日の告白なんて、まるでなかったかのようだ。
いや、彼女にとってはそれが自然なんだ。
僕たちの関係は、何も変わっていないように見える。
彼女は僕に対して変わらず「友情」の黄色を見せている。
でも、僕の中では何かが大きく壊れたように感じる。
「アオイ、今日もいろんな場所回ろうね!」
ヒカリはそう言って僕に笑いかける。
僕は、どうにか笑顔を返すけれど、心の中では彼女の笑顔が胸に刺さっている。
まるで、昨日の僕の気持ちなんてどうでもいいかのように――
いや、そう思ってしまう自分が嫌だった。
ヒカリが悪いわけじゃない。彼女は僕に正直に答えただけだし、それを恨むつもりもない。
でも、どうしてもこの違和感が消えない。
旅行は続いている。
観光地を巡って、街並みを歩いて、僕たちはいつものように楽しんでいるはずだった。
ヒカリは無邪気に話しかけてくるし、僕も相槌を打ちながら一緒に歩いている。
でも、僕の心の中では何かが止まっているように感じた。
彼女の「黄色」が僕の視界にずっと浮かんでいて、それがどうしようもなく切ない。
昨日の告白から何も変わらない。
いや、むしろ変わったのは僕の方だ。
彼女は何も変わっていないのに、僕だけが一人で彼女との距離を感じてしまっている。
ヒカリの笑顔を見るたびに、胸が痛む。
彼女はこれからも僕を友達として見続けるだろう。
でも、僕はもうそれが辛い。
彼女の無邪気さは、まるで僕の告白を覆い隠すように続いている。
まるで、何事もなかったかのように――
その事実が、僕を一層苦しめている。
旅行の終盤、僕の心の中では一つの決断が固まってきた。
ヒカリに対する想いは、もう「ピリオド」を打たなければならない。
彼女との友達関係を続けることはできるかもしれないけれど、僕の中で彼女への特別な感情はもう抑えなければいけないんだ。
彼女は他に好きな人がいる。
そして、僕に対しては「黄色」しかない。
そんな彼女をいつまでも追いかけているのは、自分を苦しめるだけだ。
僕は、これ以上ヒカリに期待し続けることはやめようと思った。
彼女の隣にいるだけで満足していた過去の自分を、ここで終わらせるんだ。
そう思うと僕の心の中では、彼女に対する恋愛感情に「ピリオド」が打たれた感覚があった。
友達としてのヒカリはこれからも大切にできるかもしれない。
でも、恋愛としてのヒカリとの未来はもうない。それは、確かな事実だった。
帰りの道中、車の中は静かだった。
ヒカリは隣で寝息を立てている。
旅の疲れが出たのか、穏やかな表情で眠っている彼女を見つめながら、僕はふと過去の思い出が頭の中を巡った。
ヒカリとの思い出は、いつも楽しかった。
彼女の無邪気さに救われたこともたくさんあった。
でも、今はそれが少しだけ遠く感じる。
彼女との距離が、物理的には変わらないはずなのに、心の中では大きく離れてしまっているように感じた。
「さよなら、ヒカリ」
心の中で、そう静かに呟いた。
彼女に対する恋愛感情を完全に手放すために。彼女が他の誰かを好きで、僕に対しては友情しかないという現実を、僕はもう受け入れなければならない。
そして、それを理解した今、ようやく僕の心には静かな安らぎが訪れ始めた。
家に帰り着くとすぐにスマホが鳴った。
ヒカリからのメッセージだった。
「旅行、すごく楽しかったね!」
無邪気な言葉に、僕は少し笑ってしまった。
ヒカリはきっと、これからも僕に友情を示し続けるだろう。
彼女にとって、僕たちの関係は何も変わっていない。
そう、それでいいんだ。
僕はヒカリとの友情を壊すつもりはない。
彼女は僕にとって大切な友達であり続けるだろう。
でも、それ以上を求めるのはもうやめよう。
「俺も楽しかったよ」と返事を送りながら、「ピリオド」を打った。
これ以上、自分を彼女に縛り付けることはしない。
僕は、ヒカリとの思い出を大切にしながら、新しい未来に向けて進んでいく。
これからの僕の道は、彼女とは違う方向に進むかもしれない。
いや、きっとそうだろう。
でも、それでいい。
僕はもう、ヒカリとの未来を期待することはない。
そして、それが僕にとって最良の選択だと、今はそう思える。
ヒカリとの旅が終わった今、僕は新たな一歩を踏み出す準備ができた気がしている。