1.運命の分岐点
僕は、ヒカリが見つめるその横顔をじっと見つめていた。
キャンパスのカフェテリアのざわめきの中、僕たちはランチを食べていたけれど、僕の頭の中は彼女のことだけでいっぱいだった。
ヒカリはいつも通り明るく、無邪気に話している。
彼女の声は僕にとって心地よく響いてくるけれど、同時に少し苦い。
彼女の周りにはいつも「黄色」が漂っている。
僕にとってはそれが、ヒカリが僕に感じている「友情」の色だと分かる。
幼い頃からずっと、僕は他人の感情が色として見えるんだ。
それが僕の能力――
「祝福」だと思った時もあったけれど、今ではそれが「呪い」なんじゃないかと思うことも多い。
だって、彼女がどう感じているか分かってしまうから。
彼女が僕を「友達」としてしか見ていないことも、ずっと「黄色」で示され続けている。
「ねぇ、アオイ。今度みんなで旅行に行かない?」
ヒカリが楽しそうに言った。
僕は一瞬、何を言われたのか分からなくて、考えが飛んでしまった。
「みんなで旅行?」
彼女の言葉に、心がざわつく。
彼女が言った「みんなで」って言葉が、僕にはまるで遠く響いているように感じた。
「うん、いいね。楽しそうだね」と答えたけど、内心ではそれ以上の言葉が出てこなかった。
僕はずっと、ヒカリと二人で過ごす時間を望んでいた。
でも、彼女にとって僕は「友達」だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
彼女の「黄色」がそれを示しているし、僕もそれを知ってしまっている。
旅行の話が進む中、心の中で複雑な感情が渦巻く。
喜び、期待、不安、そして少しの諦めが混ざり合って、僕の心はざわついた。
それでも、ヒカリとの時間を楽しみにしている自分がいるのは事実だ。
旅行の準備が進むにつれて、僕の期待と不安はさらに膨れ上がっていった。
そんな時、友人たちが次々と旅行をキャンセルするという知らせが入ってきた。
「急な予定が入って行けなくなった」とか、「バイトのシフトが変わった」とか、理由はいろいろだ。
結局、僕とヒカリの二人だけが残った。
二人きりで旅行に行くことになると分かった瞬間、僕の心臓がドクンと大きく鳴った。
これが、もしかしたら僕にとって最後のチャンスかもしれない...そう思った。
ヒカリと二人きりで過ごす時間ができるなんて、僕にとってはまるで夢のような話だ。
でも同時に、ヒカリの「黄色」が変わることはないんじゃないかという恐怖も、僕の中で静かに広がっていた。
喜びと不安が交錯する中で、僕は決めた。
この旅行こそが僕にとって「運命の分岐点」になるかもしれない。
彼女と向き合うために、僕はこの時間を使うべきなんだろうか。
告白すべきなのか、それとも、ただ彼女との友情を大切にするべきなのか。
旅行の前夜、僕は寝つけなかった。
ベッドに横たわって目を閉じても、頭の中はヒカリのことばかりだった。
彼女の「黄色」がいつも目の前に浮かんでくる。
彼女が僕を「友達」としてしか見ていないことが、視覚的に分かってしまうのは本当に辛い。
告白しても、何も変わらないかもしれない。
それどころか、今の関係さえ壊れてしまう可能性だってある。
でも、このまま何も言わなければ、僕たちの関係はずっと「黄色」のままだ。
僕が望んでいる「赤」は、きっと彼女には見えていないし、彼女が僕に対してその色を抱くこともないかもしれない。
それでも、この旅行は僕にとって最後のチャンスだ。
告白するべきか?それとも、今のままでいいのか?
悩みながら、僕は心の中で決めた。
彼女に気持ちを伝えるべきかもしれない――
それが、この旅の意味だと感じていた。
でも、不安が僕の胸を押しつぶし、息苦しくなる。
もし、ヒカリが僕の気持ちに応えてくれなかったら?彼女の「黄色」が変わらなかったら?
時計の針が静かに動く音だけが聞こえていた。
ベッドの上で体を翻しながら、僕はいつまでもその問いに答えを出せずにいた。
旅行当日、僕たちは予定通りに出発した。
車の中でヒカリはいつも通り楽しそうに話しかけてくる。
彼女の無邪気な笑顔を見ていると、告白するなんて考えがまるで馬鹿らしく思えてくる。
彼女にとって、僕たちはただの友達なんだ。それ以上でもそれ以下でもない。
でも、この旅はきっと何かを変えるかもしれない。僕は、そう信じている。