エッグスタンドがきかない
「あれは、ゾーマか?」
ここからではよく見えないが、人の形に黒い影がうずをまいており、頭のてっぺんにねじくれた角が二本生えている。きっとゾーマだ。
卵男は運が良いと思った。魔王城に侵入する穴を探すため、周辺を探索していたところであった。まさかこんなところにいるとは。
ゾーマは二匹の魔物となにか楽し気に話していた。二匹とも豚に似ておりとても強そうだ。卵男が挑んだとしても、きっとかなわないだろう。
この3体が今外にいるということは、魔王城の守りは手薄であるということだ。卵男はばれないようにその場から立ちさろうとして茂みの中を這い始めた。へへへ、魔王城にある金品を根こそぎうばってやるぜ。
「くっくっくっ」
その時、ゾーマの不穏な笑い声とともに膨大な魔力を背中に感じた。まずい。やつめ魔法を放つ気だ。だがオレの存在はばれていないはず。
卵男は振り返らず茂みの中を這い続けた。……不穏。いやな予感がする。
「愚かなり侵入者よ。姿を隠そうとも無駄だ。我は貴様を認識しておる」
「!?」
「逃がしはせん。たかが虫一匹だが。気になるのだ。高貴なる我が城に湧かれるとな」
おぞましい耳障りな声がする。これは呪文。まずいこの場からすぐに立ち去れなければ。卵男は立ち上がり、肉食動物い追われる草食動物のように一心不乱に走り続けた。
周囲の空気がゾーマ中心に流れているように感じる。そして一瞬重力が消えた。ゾーマが魔法が放たれる。
「【こごえるふぶき】」
強烈な冷気が卵男を襲う。だが卵男はもっていた。秘密兵器を…。前もって唱えていたのだ!
「【エッグスタンドなんて、いらなくない?】」
卵男はこの魔法に絶対の呪文を持っていた。ありとあらゆる危機をこの魔法で乗り越えてきたからだ。
この魔法は卵男にとって不愉快なものを一時的に全てエッグスタンドにかえてしまうものだった。ゾーマも【こごえるふぶき】も全てエッグスタンドになるはずだった。しかし。
「な、なぜだああああ」
卵男の体が徐々に氷始める。いやわずかにではあるがエッグスタンドになっているものもあった。襲ってくる冷気の中にちょくちょくエッグスタンドが混じっているからだ。なぜ効きが悪い!?呪文を間違えたのか!?
「くっくっくっ」
耳に残る不快な笑い声を聞きながら、卵男の意識はとぎれた。
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目が覚めると見覚えのあるシャンデリアが見えた。教会か。また死んだのか。
「なあ神父さん、なんでオレの最強魔法【エッグスタンドなんて、いらなくない?】が効かなかったんだ?」
となりで椅子に腰かけていた年寄りにきいた。
「そりゃ、嫉妬してしまうものをエッグスタンドにかえるだけの魔法だからな。単純な攻撃魔法におめえは嫉妬せんだろう」
納得。