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影井さんはVTuber


中学二年の夏。俺はある衝撃を受けた。


それはこれまで生きてきた中で一番の...いや、これから生きていく中でも間違いなく生涯トップクラスの驚きとなるだろう。


「う、うめえ...」


同級生、影井染実子の歌が劇的に、バチクソ上手かったのである。


下校途中、カラオケ店の前で不審に辺りを確認し一人入っていく彼女を俺は止めようとした。なぜなら校則違反だからだ。見つかって怒られたら可哀想だと思い、呼び止めようとしたところ間に合わず仕方ないから隣の部屋に入った。


彼女はクラスでも一番の恥ずかしがり屋で、この一年ちょいずっと同じクラスだったが、まともに喋れているところを見たことがない...そんな彼女がゴリ(怖い担任)に怒られてでもみろ。不登校待ったなし、ついでにゴリも責任をとらされ可哀想なことになる。


そんな不幸が起こらないよう、と思ったのだが。ギリ間に合わなかった。


...つーか、うめえ...なんつーの?芯のある声っつーか、こんな綺麗な声色してたんか影井。


彼女の美声に聴き惚れていると(聞き耳をたてていると)、またもやとんでも無い事態が発生する。


「〜♪...と、言うわけで、『キミのヒミツ☆』でした!聴いてくれてありがとー!」


「!?」


隣の部屋で聴いているのがバレている!?と、一瞬ヒヤッとしたが、いや、それならあんなに平然としてられなくね?と冷静さを取り戻す俺。


危なく「盗み聞きしてゴメン!!でも超上手かった!!すげえな影井!!!」と叫びだすところだったぜ。マジでヤバかったぜ。


つーか、何これライブごっこ?一人でめっちゃ喋ってるんだけど!?


「うん、約束だったからね!カラオケでのライブ配信」


配信!?


「でも音割れてない?大丈夫かな」


大丈夫だよ!


「まだ声でてないから恥ずかしいなあ」


これで!?嘘だろ!?めっちゃ良かったぞ!?


「じゃ、次の曲いきまーす!あ、チャンネル登録まだの人はお願いね?」


はいッッ!!!って、チャンネル登録?こいつ、歌い手ごっこか!?


「え、違うよVTuberだよ!でもありがとうね」


いや、VTuberだあああっ!!!


俺はすぐにスマホを取り出した。ごっこ、だよな?そういう黒歴史的遊びなんだよな?とぶつぶつ言いながら動画サイトにてライブ配信を検索する。...くっそ、名前...なんつー名前でやってるんだよ!わかれば一発で答えがわかるのに!!


「〜♪...ふう、ありがとう!『暗い子クライシス』でしたー!って、違う!!あたしの名前は、暗衣暗子!!暗闇の暗に、衣服の衣、またまた暗闇の暗の子供の子...クライクラコ!!」


オッケー!!ナイスコメント!!


そうしてありえねえくらいの神タイミングでVTuber名を知ることが出来た俺はソッコーで検索をかける。


「ありえねえよ、だって...あの恥ずかしがり屋の影井だぞ。根暗ってイジメられてた...俺が助けてやらなきゃ、護ってやらないとダメな、か弱い女子の影井だぞ。そんな彼女が...」








暗衣暗子 チャンネル登録者数115万人


チャット

『可愛いー!!』

『うたうますぎだろ』

『暗こおおおお!!!』

『もっと歌って』

『暗い子クライシスは神』

『くらこおおお』

『すげー高音』

...

...

...

...




3.9万人が視聴中



「...」



『いや歌上手すぎだろ!!』



...しまった。思わずチャット打っちまった。あとメンバーシップにも入っちまったし、少しだけどスパチャも投げちまった。始めて投げたわスパチャなんて。


てか、Vモデル可愛すぎるだろ。黒髪ロングの猫耳に、紅い瞳...そしてゴスロリドレス。最高すぎる。これ、あれなのか、影井はこういうの好きなのか?


でも、影井はリアルでも...って、違う!リアルでも可愛い顔してるから、ゴスロリ似合いそうとかそんな話はどうでもいい!!


まさか、影井が...あの大人しく地味な影井が、大人気VTuberだったなんて。こんなことって...。


俺が支えてやらなきゃ、俺がいなきゃ駄目だと思っていた。なのに...影井は一人のVTuberとして立派に成功している。しかもまだ中学生なのに。


かたや俺は...?


俺には何がある?


俺は...


言いようのない無力感。そしてでか過ぎる影井の背中を見た絶望感。


(影井...あいつがこうして努力して、登録者100万人越えのVTuberになっていた...その間に、俺は何をしてた)


何もしてない。


家帰って、ゲームして、寝てた。学校いって、遊んで、帰ってゲームして。その繰り返しの日々を過ごしていた裏で、影井は努力してあの歌声を手に入れ、ファンを作ったんだ。



...このままじゃ、俺は...影井の隣には居られない。


(変わらなきゃ...今日から、何かを始めよう)


「...帰ろ」






◆◇◆◇◆◇




「というわけで、もう帰るから終わりね!皆、カラオケ配信聴いてくれてありがとう!」


ふう、終わったー!やっぱり、PC越しだけど歌うの緊張する。最初は緊張で喋れなくて放送事故を何回も起こしてしまったけど、今ではこうして歌も歌えるようになった。


...これで、喋れるようになれてるかな。


あの人と喋れるよう、緊張を克服するために始めたこの荒療治。効果あると良いな。


(...フツーに話せるだけで良い)


いつも側にいてくれて、気にかけてくれる。


同級生の、優しい彼と。










お読みいただきありがとうございます!


【お知らせ①】

別作品ですが、【SSSランクダンジョン〜】のコミカライズがヤングエースup様にて連載中ですので、よろしければご覧になってみて下さい!無料で読めます!


ちなみに小説書籍も発売中!


【お知らせ②】

本日、新作の

【急募】ログアウト不能のデスゲームと化したこの世界で、クランマスターに《鉄屑》を全財産で買い取らされた商人はどう生きていけば良いと思いますか?〜フルリンク型VRMMO【アナザーワールド】〜

というVRジャンル作品を投稿し始めました。よければそちらもご覧になってみてください!


長々とすみませんでした!



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