10 守護
日が高くなって、いつの間にやら川の周りは深い森。
「ここから歩きます」
シスカさんの声の後、小舟を岸につけて、一同下船。
森の中は木の根やら何やらですごく歩きづらい。
「皆で周囲の警戒、願います」
シスカさんが緊張してるってことは、相当に危険な何かがいるってこと。
冒険は楽しいけど、危険は勘弁。
慎重に進むみんな。
エルミナ様は元気で、まだまだ大丈夫そう。
むしろ、僕の方がヤバいかも。
召喚されてからずっと城の中にいたけど、少しはランニングでもしておくんだったよ。
突然、片手を上げてみんなを制したシスカさん、
「三匹」
目を凝らすと、犬?
うわぁ、いかにもって感じの、アレが魔物。
犬とオオカミの違いも知らないけど、アレがヤバい生き物だってことは分かった。
僕に出来ることは、倒すことじゃなくて守ること、かな。
僕が噛みつかれている間になんとかしてもらおうなんて、他力本願にも程があるけどさ。
一応、木の枝でも拾って、と。
あと、映画かなんかで観たみたいに、噛みつき対策で腕に厚い布でも巻き付けようかと上着を脱いだ瞬間、
うぇっ、犬のくせしてなんで連携してくるんだよっ。
シスカさんに一匹、セセリさんに一匹、
もう一匹が、エルミナ様を守っている僕の方へ。
飛び跳ねてきた一匹に、上着をがばっとかぶせてみた。
めちゃくちゃ暴れてるけど、必死で押さえ込む。
このケダモノ臭さはまさにケダモノ!
いえ、余裕があるわけじゃないんですよ。
とにかく、必死。
気が付けば、血の匂い。
魔物にかぶせた上着に刺さっているのは、シスカさんの剣。
布地に血が滲んでいく様が、本当にリアル。
「良くやった」
シスカさんが肩に手をかけてくれて、ようやく力が抜けた。
シスカさんが剣で一匹、セセリさんが魔法で一匹、
僕が時間稼ぎ出来たので、シスカさんがもう一匹。
なんとかみんな無事でした。
たぶんMVPは、僕の上着。
頑張ってくれた上着を持っていこうとしたら、シスカさんに止められた。
「血の匂いが付き過ぎている」
さようなら上着。
君のことは、忘れたくても忘れられない思い出になったよ。
一同、引き続き警戒しながら前進。
後ろにいるエルミナ様が僕のシャツの裾をつかんで離さないけど、シャツが伸びたら伸びたでそれもまた良い思い出、かも。
また魔物が来ちゃったら、さっきみたいに上手いこと足止めしないと。
さすがにズボンは脱げないんで、次はシャツかな。
でもそれって、エルミナ様の前で上半身ハダカになるってことで、
魔物より先にシスカさんに斬られちゃうかも。
なんてこと考えていたら、景色が変わってきたよ。
そして、森を抜け、開けた場所へ。
目の前には、道無き平原。
はるか向こうに見えるのは、街?
「国境だ」
安心したようなシスカさんの声に、
一同、安堵。