第3話 お弁当
※本章には、解剖の描写があります。 苦手な方はお気をつけてお読みください。
解剖は粛々と行われ、各臓器の計測や、状態の確認が行われた。
胸腔を開くと、肺や心臓が観察出来た。 肺はとても綺麗だった。
消化器系も、問題無さそうだった。 詳しい事は、後から顕微鏡検査をする予定になっている。
先生が「まだ、お若い方だし、内蔵は問題無いでしょ? 心臓から大動脈弓《AA》そして腹部大動脈……纏めて大動脈……動脈瘤《AAA》は見当たらない……わね」
私の出来の悪い頭の中は、日本語の臓器名がやっと理解出来る程度で、略語まで頭が回らない。 臓器の形をメモし、先生の言葉を急いでメモする。
胸部から腹部は、全く問題無かった。
頭部を切開し、電動ノコギリで、丁寧に頭蓋骨を切って行く。
頭頂部の頭蓋骨が外された時、その場に居た全員が息を飲んだ。
くも膜下出血で、脳全体が赤黒く染まっていた。
「ここまでの出血があると、本人もかなり前から自覚症状があった筈だけど無理しちゃったのかな……」
先生が辛そうに仰った。
全ての縫合を終え、解剖が終了した。 全員で再度黙祷する。
私は涙を流しながら、ご遺体に向かって『今日の事は、誓って生涯忘れません。 臨床検査技師になれた暁には、お一人でも多くの患者様の早期発見に努めます。』と、心の底からお祈りした。
今思うと『漫画家になる夢』を持ちながらも、『デザイナー専門学校』に行かず、最終的に病院に勤める道を選んだのは、この日の経験があったからだったと思う。
大分遅くなったが、その日のお昼ご飯は、病理検査室の先輩方がお弁当を買って来て下さった。
当然、焼肉弁当が振る舞われた。
厳しい洗礼……と思いきや……
意外な事に、お肉はとても美味しく食べられた。 尤も、川崎君は、あまり食欲が無かったようだが。
私、変かな?
その代わり、私は暫く『高菜』のお漬物が食べられ無くなっていた。
理由は、高菜の濃い緑色が、胆汁の色に似ていたからだ。




