第5話 追憶
どれくらい、こうしていただろう……。
目と鼻を擦り過ぎて痛い。
さっき、検体処理の途中で出て来ちゃったけど、あの後は先輩たちがやってくれたのかな?
私……仕事放棄で、クビになっちゃうかな……。
……最近、何故かマンガ家を目指していた頃の自分を思い出す。
小学校低学年の頃、父が読んでいた手塚治虫先生のブラック・ジャックに魅せられて、いつか自分もあんなマンガを描きたい……と思い始めた。
高校2年の時、進路を決めるのに迷わず『マンガ家』と言ったら、両親に猛反対された。両親は、安定した職業に就いて欲しかったんだ。
それでも諦め切れなかった私は、登校拒否までして、家でマンガを描き続けた。
……根負けした父が「先ずは、どんな仕事でも良いから、手に職をつけろ。 そうしたら、30歳までは、好きにしても良い」と言ってくれた!
暇を見てスマホで、手に職を付ける方法を検索していたら『医師が治療する為の設計図を作る仕事です』という文字を見付けた。それが、『臨床検査技師』を知るきっかけだった。
色々調べていくと、一応、国家資格だし、病院務めなら、親も許してくれるだろうと思った。
更に、運が良ければブラック・ジャック先生みたいなドクターのお手伝いをして、やがては、ピノコのように、先生と相思相愛になれるかも知れない。
……そんな膨らみきった欲望を励みに、再び高校にも行き、苦手な理数の勉強もして、検査技師の養成専門学校に入学した。
3年間、専門学校に通い、国家試験も無事合格して……「さあ! これからデザイナー学園に行くぞ~」……と思っていたら、専門学校の先生から今の病院に推薦され、そのまま就職したんだ。
……この前、尿を運んでいて子供に汚がられた時も今回も、どうしてこんなにも辛い事が起きるんだろう。 やっぱり、適当に就いた仕事だから、神様に叱られてるのかな……。
こんな時、いつも私は『サム』に相談する。
早くサムに会いたい……。