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7/9

大事な局面にいない主人公とかマジ?


3章

5話

終結


翌朝。

ドス!!

安らかに眠っていたはずの俺の腹に、鋭い衝撃が走る。

「いつまで眠ってんのよこのエロネズミ!!もう仕事の時間でしょ?さっさと起きなさい!!」

寝ぼけて起き上がる俺の胸ぐらを掴んでソニカは俺を引きずる。

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。歩くから、自分の足で歩くから、手を離してくれ!!」

俺の願いは虚しく約2分間、ラムカの元まで引きずられることとなった。

「ソニカちゃん。私は起こして連れてきて〜って頼んだはずなんだけど、乱暴して良いわとは言ってないですよ〜」

ソニカは俺の顔を1度睨みつけてからラムカに視線を戻す。

「ごめんなさいお姉様。でも私エロネズミの起こし方なんて分からないの。」

ソニカはわざとらしくお嬢様言葉で返す。

「ふふふ。エロネズミに進化したんですね〜」

ソニカには何を言われても動じない精神力を持つことは出来たが、ラムカに言われると少し傷つく俺であった。

「話が脱線してしまいました〜。敏夫さんには今日からまた運送業務に入ってもらおうかと思います〜。最初の仕事は〜、私の運送なんてどうでしょうか〜?」

はっ?と声を出す前に

「ちょっと待ってよお姉様。どういうこと?こんなエロネズミに送らせる云々は置いといて、お姉様がこの街を出てどこに行くって言うの!」

ソニカは興奮気味になっている。当然だ。俺だって困惑している。社長であるラムカが自ら危険に足を踏み入れようとしている。俺だって止めに入りたい。しかしラムカにもそれなりの理由はあると思う。だからそれを聞いてから俺は判断する。

「ソニカちゃ〜ん、落ち着いてください〜。今、前線では物資の状況があまり良くないらしいの。ストリーマ商会としても貯蓄がもう底をつきそうなの。だから、より正確な指示を出すために私自ら状況を確認しに行きます。」

ラムカは真剣なラムカになり、続ける。

「私を連れていくのはソニカじゃダメなんです。もし何かあった時共倒れしては会社だけじゃなく、王国の一大事につながります。そして今この会社に残っている1番信頼できる輸送者は敏夫さんです。ソニカ、今は私の指示通りにしてくれませんか?」

「でも、敏夫はアルカを」

そこでソニカは口を閉じ、部屋を出ていってしまった。

「おい、ソニカ!!」

俺の言葉で振り返るはずはないよな。ソニカはアルカを守れなかった俺を責めようとしたのだろう。あのソニカが、何も言わずに今までいてくれたのはきっと我慢させていただけだと思う。責められて当然だと俺は納得した。それと同時にソニカが心配になる。

「ふふふ。心配ですか敏夫さん。ソニカなら大丈夫ですよ。あの子は私たち姉妹の中で1番強い子なので。」

「心配だよ。ソニカのことも、そしてラムカさんのことも。」


俺はアルテガから貰った簡単な剣装備を身につけ、ラムかを送る準備をした。

「似合ってますね〜。噂で聞いてますよ〜。軍に行って剣を学んだんですね〜」

「うん。何も出来ないのが嫌だから。俺は俺のできる範囲を増やしたかった。ラムカさんを無事送り届けますよ。」

「お願いしますね〜」

ラムカは両手を合わせ微笑んだ。

「それで、どれを使って行くんですか?」

人を乗せる用の馬車は、避難民やら軍の輸送やらで全てで払っていた。

「あれです〜」

ラムカが指さしたのは俺がよく使っている馬。勝手にシロと呼んでいる。白い馬だからシロ。我ながらネーミングセンスの無さには落胆する。しかし馬じゃなくて馬車の話をしてるんだが

「あのー、馬車は?」

ラムカは人差し指を顎に当て、顔を傾ける?

「私一人なので、馬車は使いませんよ〜。もったいないじゃないですか〜。2人乗りは初めてでしょうけど、馬車よりは簡単ですよ〜。」

ラムカと2人乗り。その響きだけで心躍る。しかし本当に何かあったときは俺が盾にらなければ。


ラムカと2人で街を出て馬を走らせる。ラムカは俺の腹に手を回して落ちないように密着している。当然だがふたつの柔らかい感触が背中に当たっている。こんな状況では集中も出来ない。まだ安全圏にいるとはいえ、前回のことがあるため油断は出来ないのに。俺は邪念との戦いを繰り広げていた。

「敏夫さん?」

ラムカの声でふと我に返る。

「大丈夫です大丈夫です。決してやましいことは考えてませんので。しっかり護衛させていただきます。」

何も言われてないのに口からペラペラと墓穴を掘っているだけだ。

「ふふふ。良かったです。」

いつものラムカじゃない。真剣なラムカだと今気がつく。

「アルカの件があってから敏夫さんのことが心配でした。それこそ夜も8時間しか寝られないぐらいに。」

しっかり寝てるじゃないか!ん?待てよ。これだけ忙しいのに8時間も寝る時間があったのか?いやあるから言ってるんだろう。

「私もね、アルカのことを聞いた時は膝から崩れ落ちました。帰ってきたのが敏夫さんだと知った時に、どうしてアルカではなく敏夫さんが帰ってきたのでしょうと思ってしまうぐらいには。」

俺は黙ってその話を聞いた。

「でも帰ってきた敏夫さんの顔を見た時、別の感情が湧いてきたんです。敏夫さんだけでも帰ってきてくれてよかったと。もうしかしたら私はアルカの責任を全て敏夫さんにぶつけていたかもしれません。本当にごめんなさい。」

ラムカの俺を掴む手に力が入る。

「そんなことないですよ。ラムカさんの考えは当然です。普通なんです。でもあの時俺を心配してくれたラムカさんは本当に優しい人だと思います。ソニカだって本当は色々言いたいし、蹴り飛ばすぐらいのことはしたいと思いますよ。でも2人が居てくれたからこそ俺は救われた。だから、もしのことなんて謝らないでください。」

「ふふふ。敏夫さんも充分優しいですよ。アルカが居なくなってから1週間何度も夢を見るんです。敏夫さんとアルカが仲良くご飯作ったり、会社を経営している姿を。」

それって。

「アルカが敏夫さんを連れてきたあの日、私はに2人が並んでいる姿が自然に見えたんですよ。だから、長女として敏夫さんがどんな人間か見てみたかったんです。悪い人ならすぐにクビにする所でしたけど、あなたは優しかった。一生懸命だった。だから、アルカと」

後ろで鼻をすする音が聞こえる。ラムカは俺を力いっぱい抱きしめる。そして無言になり、馬が走る音と鼻をすする音だけが静かに俺の耳に届いた。だから俺は振り返らないようにした。


「敏夫さん、ありがとうございます。」

少したってラムカは俺に話しかける。ただその時俺はそれどころではなかった。お腹が痛い。ラムカは女性とはいえ運送業をやっている女性。腕は細く美しいが、力はそれなりにあった。多少の時間ならなんともないが、さすがに長時間力を入れられ続けると、体が悲鳴を上げ出す。

「敏夫さん?」

「ラ、ラムカさん、少し腕の力を抜いてくれませんか?」

ラムカはこの言葉で気がついたようで、今度は思いっきり手を離してしまった。当然急にそんなことをしてしまってはバランスが取れるわけが無い。ラムカは必死にバランスを戻そうとするが、1度崩れたバランスを戻すのは難しくそのまま落馬した。しかし俺がこのことを見ているだけなわけが無い。ラムカが落ちる寸前に俺は馬から飛びラムカを抱きしめて体を地面側に捻った。こうすれば地面には俺がたたきつけられ、ラムカは俺がクッションになるから大怪我することは無い。俺は慣性で少し地面を滑ったが、ラムカを守ることには成功した。

俺の上に乗っているラムカは急いで起き上がり、俺の上半身を起こしてくれた。

「敏夫さん!大丈夫ですか?」

「ははは、ビックリしましたよ。俺は大丈夫です。ラムカさんの方は怪我はなかったですか?」

「良かったです。すいません私のせいで。」

「そうしてるとアルカそっくりですね。アルカも失敗した時そんな顔してましたよ。」

「敏夫さん。」

「先を急ぎましょう。のんびりしてると帰った時にソニカに怒られます。」

「そうですね。」

俺たちはこのまま軍の補給地点、パンデルフォンに向かった。


パンデルフォンは村ではなく、戦争のために建てられた補給及び治療を行う所。俺はラムカをそこで降ろして、村に帰ってソニカを手伝って欲しいとラムカに頼まれた。

「それじゃ、また必ず迎えに来ますから。無事でいてください。」

「はい〜敏夫さんもここら辺は危険なので気をつけて帰ってくださいね〜」

「はい。それでは」

馬に乗り街へ向けて出発する。後ろではラムカが手を振ってくれていた。俺も手を振り返した。


パンデルフォンと街の丁度中間地点ぐらいだろうか。俺の体は限界を迎えていた。落馬してラムカを助けた時に外傷はなかったが、変なところを打ったらしい。ラムカを送っている時も、何度か意識が飛びそうになった。ラムカがそばにいる時は何とか根性で乗りきったが、1人になると気が抜け、そして今限界が来た。俺は体の流れに身を任せて静かに馬から落ちた。シロは俺の元にやってくる。

「シロごめんな。俺帰れそうにないわ。だからせめてお前だけでも帰ってくれないか?」

今にも意識が飛びそうだ。最後の力でシロに話しかけていた。馬鹿な話だ。馬に話しかけるなんて。だが通じたのかシロは俺が向かっていた方角へ走っていった。それを見た俺は安心して目を閉じる。

「また会えるな。アルカ。」



その日の夜。イルガルダ帝国の降伏により戦争は終わった。優勢に戦争を進めていたイルガルダの急な降伏にアバンベルト王国は戸惑っていた。

イルガルダ帝国によると、過激派であるサシュール国王とその臣下を保守派のサルメナ大臣が追放したとの事。前々から内部分裂の話は出ていたが、それがイルガルダ帝国にとって最悪のタイミングで決してしまった。こんなあっけない形で戦争は幕を閉じた。

戦死者は約2万人。イルガルダ帝国約2千人。アバンベルト王国約8000人。イルガルダ帝国の2千人は全て兵士。アバンベルトは3千人が兵士で5千人が民間人。民間人のほとんどは避難していたが、避難先ではまともに寝泊まり出来る場所を人数分確保できなかったり、食糧不足が常に起きていたりと、戦争の二次災害での死者の方が多かった。アバンベルト王国は戦争に勝ったと言っていいのだろうか。




次回から最終章突入です。

というかほとんどエピローグみたいなものですけど

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