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アルカと俺

  3章

  2話

  アルカと俺


 戦争開始から2か月が経った。当初はイルガルダ軍優勢と思われていたが、技術に頼り切ったイルガルダ軍は兵士個々の力が弱く、技術ではなく兵士の鍛錬に力を入れていたアバンベルト軍が何とか前線を保っていた。しかし拮抗状態が続けば、兵士の数で圧倒しているイルガルダが攻め込んでくるのも時間の問題と新聞に書いてあった。しかし俺が直接戦争にかかわることはない。俺はあれから避難民を街まで運んだり、要塞建設の物資を前線近くの村の運んだり、ラムカの手伝いをしたり、相変わらず休みはないが・・・・


「敏雄さん、少しいいですか~?」

今日も自分の部屋で書類作成を行っていたところラムカが入ってきた。

「すいません。まだ書類できてないんです。」

「いえいえ、少し別の仕事をお願いしたいんです~。」

「なんですか?俺にできる仕事なら何でもしますよ。」

「なんでもですか~。それはよかったです~。1か月前に徴兵された兵士を前線まで運んでください。」

もう前線に駆り出されるのか。

 1か月前、戦争が長引くことを見越したアバンベルト国王は戦力増強のため成人男性と、看護要員として少数の女性を集めた。国中のほとんどの男性が軍に参加した。俺にも声がかかったが、ラムカが何とか断ってくれたらしい。というのも詳しくは聞いていないが、ある日を境にぱったりと誘いが来なくなったのだ。

「何人ぐらい送るんですか?」

かなりの数が徴兵されたから、一人で行けるのか?

「80人ぐらいです。一つの馬車じゃ無理なので、私も付いていきますよ。」

ラムカの後ろからアルカが顔を出してきた。いつの間に入ってきたんだろう。

「はい~。二人で行ってもらうんですけど、最前線に行くことになるので注意してくださいね~。あと一応騎馬隊が一緒についていくことになってるので、失礼のないようにお願いしますね~。時間は今日の13時からです~」

そうか。最前線まで行くのか。アルカを連れて。この仕事の重大さに今気が付いた。それはそうだ。戦力を運ぶという点でも、アルカを危険にさらせないという点でも、この仕事は俺の人生で1番重要な仕事になる。

「わかりました。少し不安ですけど、無事二人で帰ってきます。」

「アルカちゃんをお願いしますね~」

ラムカは手を振って見送る。出発まであと2時間。俺は準備を進めた。


 集合する広場にはすでに騎馬隊と新兵が集まっていた。

「この国のために集まった勇士たちよ、私は王国軍第3騎馬隊隊長ミナルガ・シードだ。これよりお前たちとともに最前線に向かう。・・・・・」

ミナルガの演説が始まる。それとともに場が熱気に包まれる。

 演説が終わり、俺たちの仕事が始まる。兵士たちを乗せ騎馬隊とともに街を出る。


 騎馬隊に周囲を囲んでもらい、その中心に俺とアルカの馬車が配置された。会敵しても隊列を乱さず突破できるようにしているとのこと。ミナルガ隊長が説明をしてくれた。しかし不安なのが隊列が乱れた時だ。周囲に逃げ場がないため敵に狙われると身動きが取れなくなる。馬を降りれば逃げれるが、徒歩で逃げるには限界がある。なんせ相手は銃を持っている。俺にできるのは敵に出くわさないように祈ることだけ。

 しかし道中は平和と言わざるを得なかった。いつもの輸送中と何も変わらないぐらい静かで、戦争が起こってるとは思えなかった。

「静かですね。このまま何も起きないといいんですけど。」

アルカは珍しく起きたまま運転をしていた。

「ふあああ、よく寝ました。」

前言撤回。今まで寝てたようだ。この状況でよく寝れるもんだ。俺なんて緊張しっぱなしで気がめいりそうだというのに。

「ふふ。悪いな。後ろの兵士達も緊張して空気がピリピリしてるというのに、この状況で寝られるなんてストリーマ姉妹というのはさすがだなと。」

嫌みというわけではなさそうだ。ミナルガは感心したような顔をしている。

「それほどでもありませんよ。」

アルカは少し照れたようにして俺の方を見る。アルカよ、それでいいのか。

「そういえばストリーマ姉妹ってそんなに有名なんですか?」

ほとんど会社の中で生活してきたからそこら辺の話は聞いたことがなかった。

「ん?君は。そうか別の世界から来たという変人がストリーマ商会にいると噂に聞いていたが、君だったのか。」

変人って。そんなこと言われてたのか。

「あまり作戦中の私語はよくないが、私が始めた話だ。あまり話をしたことを広めないでくれよ。」

「はい。」

「ストリーマ姉妹は一代でストリーマ商会を作り上げた鬼姉妹と言われている。先代社長のサルガシ・ストリーマは運送業を始めたが業績があまり良くなかった。しかしサルガシ氏が病死してしまった後

、後継ぎは長女のラムカ・ストリーマになった。それから3姉妹は寝る間も惜しんで仕事をつづけた。そうしたら半年もたたないうちに収益を上げ、会社を大きくし、今に至る。」

「確かにお父さんは経営才能はなかったですね。でも人望の高い良い人だったんですよ。」

アルカは自慢げに胸を張る。

「そんな努力があったんですね。」

アルカやラムカが居眠りするのは、まとまった睡眠がとれなかった時期があったから少しでも寝るための技術なのだろう。

「さ、話はここまでだ。気を引き締めて行くぞ。」

ミナルガは俺たちから少し距離をとり、周りの騎馬兵に指示を出しに行く。


 途中休憩をはさみながらではあったが、夕暮れ時に目的地に近づきつつあった。

「そろそろだな。」

ミナルガは大きく息を吸い込み

「お前たち、もうすぐ野営地に着く。陣形を整えろ。」

「ウオオオオオオ!!」

騎馬兵たちは雄たけびを上げ陣形をきれいに立て直す。その瞬間だった。

パァン!!

何の音かわからなかった。聞きなれない音。そして自分の前を進んでいたミナルガが馬から崩れるように落ちた。

ドン。

今度は自分の体に大きな衝撃が走る。地面にたたき落されたのだ。騎馬兵たちの馬は訓練されているため大きな音が鳴っても平然としているが、俺とアルカが乗っている馬は音に弱く暴れだしてしまった。馬は自分たちを囲んでくれていた騎馬隊を薙ぎ払うように暴れ、荷馬車からは兵士が投げ飛ばされるように飛び出していた。俺はそれを見ていることしかできなかったが、アルカは早々に馬を落ち着かせ、兵士を馬車からおろしていた。

 しかし隊長を失った部隊は混乱しており、目の前に攻めてくるイルガルダ軍に対して固まったまま動けなくなっている。

ドドドドドドドドドドドドド!

先ほどと違い連続して大きな音が鳴り響く。そこで何の音か理解した。銃だ。周りにいた兵たちが次々に倒れていく。自分に当たらなかったことが奇跡のように思える。

「アルカ!!無事か!」

「はい!大丈夫です。」

銃撃が止まり、兵士たちの近接戦が始まる。この世界には連射式の銃はなく、火縄銃を持った兵士がある程度打ち尽くしたら剣に持ち替えて近接戦に変える。イルガルダの戦法だった。

 俺はアルカを連れて、後方へ下がる。アルカを危険にさらすわけにはいかない。

「はあ、はあ。ここまで来たはいいが、これからどうしたもんか。」

後方と言っても離れすぎても危険になるため、ほんの少し後方にした。

「よかった。逃げ延びてくれてたのですね。」

そこに騎馬兵が一人現れた。

「馬は・・・逃げてしまったみたいですね。一人なら私の後ろに乗れるので、どちらか。」

馬に3人乗れないことはない。しかしバイクに3人乗りするときの危険さを考えれば、長い距離を3人乗りで進めないことぐらいはわかる。

「アルカ、乗ってくれ。」

「でも、それじゃあトシーオさんはどうするんですか。」

「俺はいい。ストリーマ商会には君が必要だ。」

「でも。」

「自分の生かせる能力を見つけたんだろ!」

アルカは目に涙を浮かべながら強く頷く。

「トシーオさん、どうかご無事で、えっ?」

その瞬間アルカの体が崩れ落ちた。

「アルカ!」

アルカは背中から赤い液体を滝のように流している。

奥には銃を構えたイルガルダ兵が立っていた。次弾を装填しようとしている。

「くっ、行くぞ。」

騎馬兵に抱えられ無理やり馬に乗せられる。

「待ってくれ。アルカが、アルカが」

「これ以上ここにはいられない。君だけでも逃げるんだ。」

馬は走り出す。アルカを置いて。騎馬兵は俺の腕を片手でしっかりと掴んでおり、馬から飛び降りることさえ出来なかった。

「クソォォォおおおおおおおお。」

俺の叫びは戦場の音でかき消された。無力だ。

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