007-観察者-
「ソラが元気をなくしてから7日経ったけど、何かあったのか?」
新城は少し寂しそうな表情で2人に語る。
「そうよね、このごろゲームしてる姿なんて見てない気がする」
その意見に同調するサクラ。
「遊ぼうと誘っても誘いに乗ってくれない」
そしてバズー。
「よっし! じゃあ今からソラの家に行こうぜ! 3人で誘えば来るかもしれないし、元気になるきっかけが出来るかもしれない!!」
「当たって砕けろ! やってみなくちゃわかんないしね!」
「よし! じゃあ行こ!!」
彼ら3人は、ゆっくりとソラの家に向かうのであった。
―――”@……0.5”―――
「こんにちはー!」
サクラが元気ハツラツな声を玄関に向かってぶつける。
すると玄関から一人の老婆が。
「ソラ君いますか?」
「おやまぁー、こんな大勢で、さぁ中に入って」
ソラのおばあちゃんが3人をイスに腰掛けさせるとソラを呼びに向かった。
数分後、ソラは無表情で階段を降り3人が座るイスに腰掛けた。
「ねぇー今からキング・オブ・ナイトしにいかない? もちろん4人で」
ソラは一呼吸置くと問いかけに答えた。
「イヤ、俺はいい……遠慮しとく……」
その言葉を発した途端、テーブルを強く叩いて立ち上がる者が一人。
「お前はどうしちまったんだよ! 病院から退院した後1度もやってないだろ? お前が一番好きだったゲ――」
新城はソラを心配しているからこそ怒鳴った。
しかし、全てを言い終える前にソラが言葉を遮る。
「ほっといてくれ!!」
だが、このくらいで新城はひるまない。
「そういうわけにはいかない! みんなお前の事を心配してるんだ! 行かない理由ぐらい教えてくれよ!!」
つかの間沈黙が続く。
ただし、沈黙といえども長くは続かない、ソラは震える唇を噛みしめ言った。
「……怖いんだ……」
「何が? 何が怖いの?」
サクラはソラに訪ねる。
「俺が入院した日から、あの悪夢がものすごい勢いで悪化している。毎晩眠るのも怖くなるぐらいに……」
「だからって……なんで?」
「また負けると、どんどん悪夢が悪化していくような気がするんだ……」
「ちょちょちょっと、悪化ってどういうこと?」
バズーが間に分け入る。
「わからない……けど、これを表すには悪化て言葉しか思いつかない」
「わかった、ならこうしよう、チーム戦をするんだ!」
新城がソラの顔を真剣に見つめていった。
「僕たちがソラを守ってあげるよ!」
「そうよそれに、何か変わるきっかけが必要でしょ? 悪夢だってきっかけがあれば、悪化が止まるかもしれないんだし」
「……変わる……きっかけ……?」
――@…0.2――
ソラの肩が震えていた。
「泣くなよ、男だろ? ほら、行くぞ!」
新城は手をさし伸ばした。
ソラはその手をしかと握り立ち上がった。
そして涙を拭きながら新城に感謝の言葉を伝える。
「俺って、最高の友達が持てて嬉しいよ」
そこからは一変、ゲーセンに着きゲームをすると連勝連勝でソラの笑顔は絶えなかった。
そうなるはずだった。
―@0.1―
運命とは決まった方向にしか進まない。
たとえ、自分の先の運命が見える者がいたとして、その運命を変えたとしよう。
しかしそれがそうなる運命だったとしたら?
観察者なる私は運命にあらがう者として彼らの運命を何回何百回も観察してきた。
そして観察者ならざる行動として、変化を見出そうとした。
そう、どうにかしてこの不幸な運命を変えられないのか、試みようとしたのだ。
しかし、いくらやってもやはり最終的には同じこと。
これが私の、観察者としての運命なのだろうか……
やはり私はただただ、観察をすることしか出来ないのだろうか。
再び私は見飽きた光景を、彼らには初めて起こる光景がハ・ジ・マ・ル
@0
ソラの背中の刺青が”@0”に変わったと同時に異変が起きた。
ビルが立ち並ぶ摩天楼に、一人の男が舞い降りる。
男が手を前に突き出すと、後方から次元の扉開かれん。
次元の扉の闇から従いし者、後にシャドーと呼ばれる下部が飛び出す。
辺りから溢れんばかりの悲鳴、絶望、拒絶。
シャドーは感情もなく人々に襲い掛かり、喰らい尽くす血肉、心、記憶。
そしてソラたちの真上の上空にも次元の扉が現れる。
始めにバズーが気づく。
それに続き、皆も上空にいる奇妙な生物の存在に気づく。
周りでは悲鳴を上げて逃げている人たちの間に、浮いたような存在感を醸し出す4人が立ちつくす。
最初にバズーが震えながら喋る。
「あっ、あっ、あれって!!!」
「イヤーーーーーーーーーーーーー!」
サクラが耳を塞ぎ悲鳴を上げる。
「一体何がどうなってんだ!? 新しいゲームのイベントか?」
わけもわからず困惑する新城。
「この風景……見たことある……あの夢……あの悪夢が現実になったんだ……」
ソラの絶句した表情、バズーの恐怖におののく表情、サクラの現実から目を背けたい表情、新城の困惑する表情。
この表情を私は数え切れないほど見てきた。
何故私はこれほどまでに無力なのか、何故私はそもそも彼らを観察しているのだろうか?
彼らの運命を変えれば少しはわかるような気がする。
そして毎回彼らが襲われた瞬間、全てはリセットされ、最初から始まるはずだった。
しかし何故なのだろう……今回は違っていた。
私の認知外で少しだけ、彼らの運命が書き換えられていたのだ。
一体どうやって……誰が……全てはこうなる運命だったのか?
私の知らない運命の歯車が今まさに動き出していた。
世界の宇宙の運命の軌道修正をものともしない、強大な力によって偶発的に、意図的に……