011-過去から続く恐怖-
暖かいぬくもりを感じる。
何かが燃える音が聞こえる。
ここはどこだ――?
いや、考えるのはよそう……
まだ寝ていたいから。
一瞬の瞬きで自分の身にあったことを思い出し、身体の上に被さっていた布を放り投げた。
「バズー――!!」
目を覚ましたソラ。
彼は木造作りの暖炉がある部屋にいた。
ベッドの掛け布団を元の位置に戻し、周囲を見渡す。
「こっここは……どこだ?」
「――あっ! 目が覚めましたか?」
隣の部屋から声が転がり込んでくる。
隣との部屋の間にはドアが無いようで入り口から見知らぬ女性が登場した。
「あなたは?」
彼女は落ち着き払った様子でソラの質問に答える。
「私は由梨菜と言います。あの子から話は聞いてますから、どうぞゆっくりしていってくださいな」
どうやら俺が倒れてからバズーが町の民家に連れて来てくれたらしい。
ソラは脱がされていた上着を羽織ると、この町の事を知るために由梨菜の家から飛び出した、
町を見渡すと多くの民家が見える。
しかし、その割には表を歩く人々の数が異様に少なく感じるものであった。
話を聞こうにも、声を掛けるたびに人々は震え上がり、一目散に逃げていった。
ふとソラの中に新たな疑問が芽生える。
「そういえば由梨菜さんの家だけ2階建てだな……何故他の民家は1階建てだけなんだ?」
この町には何かが起こっているようだった、
ひとまずソラは情報を得られる唯一の存在、由梨菜にこの町の事を聞くことにした。
「由梨菜さん少し聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「いいですよ」
由梨菜は暖かい飲み物をソラに差し出し、リビングで話そうとキッチンから場所を移した。
「この町の人は何故、僕が話を聞こうとすると一目散に逃げるんですか?」
「うーん、多分それは3年前ぐらいからこの町に起こっている事が原因だと思うわ」
飲み物を厚そうに一口口に含み、言葉を続ける。
「”カゲメ”にこの町は攻撃されたの」
「カゲメ?」
由梨菜は白い紙とペンを取り出し紙に文字を書き出す。
「”影”の”目”……即ち影目。場所によっては”シャドーアーイ”って呼ばれているらしいわ」
「シャドーアーイ!?」
ソラは聞き覚えるある単語に反応し思わず立ち上がってしまった。
その衝撃で手に持っていたカップをひっくり返してしまい、テーブルの上にコーヒーをぶちまけてしまった。
「ぁあ! すみません!!」
「大丈夫よ、そんなに慌てないで」
すぐさまソラは由梨菜の異変に気づく。
「それ……熱くないんですか?」
由梨菜の手にはソラがこぼしたコーヒーが掛かっていた。
「……うん」
由梨菜は近くにあった台拭きを使ってこぼれたコーヒーを処理すると新しいコーヒーをソラに振る舞った。
「私、痛みを感じないの――影目のシャドーに襲われて、私、おかしくなっちゃったみたい……」
「本当に……すみません……」
由梨菜はソラの罪悪感をうやむやにする為に話を元に戻そうとした。
「この町はそれなりに昔は活気があったのよ? 外から部外者が立ち入れない町だったけど、それなりに幸せだった」
窓から外の景色を見て、昔を思い出すかのようにゆっくりと目を閉じた。
「でもある時町に住む町長の娘が町の外にいた部外者を中に招き入れたの……」
カップの中の水面に映る自分に視線を落とし、続けた。
「一部の町の人たちは拒絶したわ、けれど、町長の娘は誰に相談することなく招き入れてしまった……その部外者が災厄を招くとも知らず……恋心に身を任せて」
再びコーヒーを口にする。
「その部外者は人ではなかったの、影目が変装していた人モドキ……ソレがシャドーを操り次々に町の人を襲っていったわ」
「まさかとは思うんですけど、その町長の娘って……」
首を横に振る由梨菜。
「いいえ、私じゃない。でも、私の母の話……でもコレで分かったでしょ? 何故人々が部外者の貴方達を避けるのか……」
「俺達がまた同じ事を繰り返すかもしれない……影目かもしれないって事か……そりゃ怖いよな」
自分がここの住人と同じだったらと考えて、今日の自分の行動を後悔した。
「落ち着いた今でもたまにシャドーが現れてここの人たちをさらっていくわ……だから選別されているんじゃないかって不安になるのよ」
「誰も助けてくれないんですか? 他の町の人とか」
少し間を空けて答える由利菜。
「こんな田舎を救ってくれる人なんていない、それに他の町に避難した方がまだ生き残れる可能性は高いわ。現に元気な人たちは他の町や村にいって避難して幸せに暮らしている……」
「じゃー、何故由梨菜さん達はここに残って暮らしているんですか?」
「町の人たちはこの町が好きなの、そう簡単に故郷を離れることなんてできないわ。そして私の場合は償わなければいけない……母が犯してしまった罪を……ここの人たちを置いてなんかいけない!」
静まり返る2人。
「なら俺がこの町を救います!」
「あなたが?」
ここに来る前にもシャドーを倒したことを伝えるソラ。
「信じられない……あなたはバスターなのね?」
由利菜が言うバスターとはこの世界にてシャドーを倒すことを生業とする人たちのことを指す。
「そういう事になるのかな?」
「――ありがとう」
女性に手を握られてお礼を言われたことの無いソラは照れていた。
「それにしても、バズーはまだ起きてこないのか?」
「そうね、きっと疲れて寝ているのよ」
なら起しにいくしかないと張り切って階段を上ろうとするソラ。
「2階に行くのは駄目よ!」
突然由梨菜が叫んだためソラは固まった。
「起こしちゃ悪いからね」
「はーい……」
肩の力が抜けたソラは眠気があることに気づいた。
ふと窓を見ると、すでに夜になっていた。
「もう遅いので寝ます。おやすみなさい」
「おやすみ」
こうしてソラは眠った、
もうすぐ悲劇が起きようとは知らず……安息の眠りへ誘われた。