001-キング・オブ・ナイト-
――闇に紛れし記憶――
果たしてそれは過去のものなのか未来のことなのか…
行く末を見届ける観察者として、私はその一部分を見ていこう――
***
ビルが立ち並ぶ摩天楼に、一人の男が舞い降りる。
男が手を前に突き出すと、後方から次元の扉開かれん。
次元の扉の闇から従いし者、後にシャドーと呼ばれる下部が飛び出す。
辺りから溢れんばかりの悲鳴、絶望、拒絶。
シャドーは感情もなく人々に襲い掛かり、喰らい尽くす血肉、心、記憶。
さぁ、あそこの小僧も喰らい尽くそうぞ!!
***
突然布団が宙を舞う。
それを追うかのように数滴の汗が飛んでゆく。
勢いよく上半身をあげたせいだ。
荒れた呼吸をゆっくりと整える。
「またあの夢……か――」
≪喰らい尽くそうぞ、銀河に生きる民を……そして我が手に、アナザーワールドを!!≫
突然頭に響いた声は一体……?
少年は頭を抱えながらベットを抜け出す。
この少年の名前はソラ、ファーストに住むタランド・キュイールズ・ソラ。
この世界は”カムダカラ”という名称のコンピュータで成り立っている。
草木を育てるのもコンピュータ、世話をしてくれるのもコンピュータ、アレもコレも全てコンピュータに依存しきっているといっても過言ではない。
しかし、ソラの祖母の様にコンピュータに頼らずに生きる原始的な人間も少なくはない。
この町の話はさておき、この少年ソラは度々悪夢を見るようになっていた。
ソラ自身この悪夢のことを気にしているようで、何かが起こる前兆のように考えていた。
だが特にコレといった異変が起こらないので、最近では邪魔なニキビの様に嫌っている。
「暇だよな~」
ため息混じりに喋るソラに対し、目の前の黒色系の少年はオレンジジュースに突き刺さっているストローで遊んでいる。
「バズーどっか行かないか?」
そう、この黒色系の少年バズーは発明好きで有名なソラの親友。
「いいけど、今日も”例の場所”ってことで構わない?」
「OK!」
ハツラツとしたテンションに急変したソラは、バズーと共に例の場所に向かう。
例の場所というのは、何を隠そう今話題のゲームセンターの事。
流行の最先端である、キング・オブ・ナイトを楽しみにほとんどのように毎日通う。
キング・オブ・ナイトとは、様々なモンスターらを倒して行くゲームのこと。
倒した瞬間札を貼ってやると、そのモンスターはプレイヤーの体に取り込まれて経験値アップ。
だがもう一つ選択肢があり、それはモンスターを武器にすること。
札には何種類かあり、簡単にいえばモンスターを武器にする札。
プレイヤーの体に取り込む、経験値&回復系の札。
それを主に使うゲームである。
札の他にもアイテムは多々あり、自分の装備や力を強化して、最終的にはコロシアムで戦うゲームである。
「さぁーバズー! 鍛えてから戦うか? それとも速攻戦うか?」
興奮が絶頂に達しかけているソラはバズーに問いかける。
「いつも負けてばっかりだけど、今日こそは勝つよ! だから……どっちにしようかな?」
「悩むなよ!!」
バズーは優柔不断な性格のせいか、どちらにするか悩んでいる。
その間ソラはゲームセンター内をうろつくことにした。
「何だ? また黒コートがいる……いつも何しに来てるんだ?」
ソラの言う黒コートとは、最近ゲームセンターに出没する男の事。
詳細は不明だが、特にコレといってゲームをせず、観戦している所しか目撃されていない。
それゆえに一部の常連客からは気味悪がられており、誰も接しようとはしなかった。
***
1時間後――
「よーし決めたよ! ソラ」
「……遅すぎるんだよ」
すっかり興奮が冷めたソラは、断食して1週間経ち、生気を失ったような顔をしている。
「ごめんごめん!」
いつものやり取りのように謝るバズー。
ソラも気持ちを入れ替え戦闘モードに入る。
「じゃあやるか!」
ソラたちは、キング・オブ・ナイトの機械に乗り込むと、お金とPLAYERカードを挿入した。
機械は大掛かりで、多額の金がつぎ込まれている為、メニュー画面に行く前に座席が上昇する。
【カチャ、ウィ――――ン】
そして、目の前にあるコックピットの様な物の中に入ると機械が喋りかけてくる。
≪バトルヲシマスカ?ソレトモイクセイシマスカ?≫
2人とももちろんと決まった顔で同時に答える
『バトル!!』
≪リョウカイ≫
機械がそういうと、突如機械の土台部分が回転し始めた。
≪カイテンシマス、ゲームヲスルオキャクサマイガイハ、ハナレテモニターデオタノシミクダサイ≫
【ウィ――――ン、プシュ――!】
準備が整うと、ソラたちの目の前が、仮想空間に変わる。
≪セットアップ!≫
「バズー勝負!」
「負けないよ!」
≪バトル……スタート!!≫
戦いの幕が今開かれた。
「おらぁぁぁあああ!!!」
【ガンっ! ガンッ! チャッキッン!】
【ダッダッダッダッダッダン!】
ソラの剣”スレイマン”、そしてバズーの銃”土樂銃”が戦場を彩っていく。
「なかなかやるようになったじゃん! バズー」
「だから言ったよね! 今日は負けないって!」
白熱したバトル、観戦客もヒートアップしていく。
「だけどバズー……この勝負は俺がもらった!」
「まさか――――!!!」
ソラはそう言うと、剣を大きく振り上げ、投げた。
「閃光の刃よ、鋼の地よ、我が剣に破滅の怒りを!!」
ソラの言葉と共に宙を舞う剣、スレイマンが幾百の剣になったかと思うと、ソラの合図と共にバズーを一瞬で貫いた。
≪ウィナーソラ!≫
【ウィ――――ン、ガッ、ウィ――――ン、プシュ――、カチャ】
座席が地上に降り、2人は冷めやまぬ興奮を抑えきれずにいた。
「フゥー、今日も俺の勝ちってことで!」
「ソラは強力な必殺技を持ってるから強いんだよ! それが無かったら僕だって……」
「そんなこと言うなよ? 必殺技ってのは努力の結晶なんだし」
何気ないいつもの日常。
だがその日常が変わり始めようとしていることに2人は気づいていない。
黒コートの男に見つめられていることを。
止めようもない運命に、導かれていることを。