第三十三話 魔王城の門番 その二
「面白いっ!! オリバよ、お前の筋肉と俺たちの筋肉、どっちが本物の筋肉かはっきりさせようではないかっ!!」
バリンは拳を握り、両肘を曲げ、両方の拳を顔の近くに持ってきた。
ボクシングの基本姿勢・ファイティングポーズだ。
リシンとロイシンは両手を上に向け、手のひらに魔法を浮かべた。
「俺が真ん中のバリンを倒す。そうすればお前の魔法で残りふたりを攻撃できる。左右のどっちかを攻撃してくれ」
オリバがルナにささやく。
「わかったわ。森魔法は火魔法に弱いから、左側の水魔法使い・リシンから倒すわっ!」
ルナは頷く。
「行くぞっ!!」
オリバはバリンに飛び掛かる。
バリンは渾身の力を込めて右ストレートをオリバに打ち込む。
「スキル! トウモロコシ・アブズ!!」
オリバは腹筋に力を入れる。
皮下脂肪のないオリバの腹筋は六つに割れている。
トウモロコシの一粒ひと粒のように、くっきりはっきり一つひとつの腹筋が見てとれる。
オリバはバリンの拳をトウモロコシのような腹筋で受け、バリンの拳を跳ね返した。
「――ばかなっ!!」
バリンは出血している自分の拳を驚いた表情で見つめる。
その隙にオリバはバリンの左胸に拳を打ち込む。
渾身の一撃だ。
バリンの分厚い胸にオリバの拳がめり込む。
「ぐっはっ……」
バリンはうめき声を上げ、口から血を吐く。
首を垂れてそのまま動かなくなった。
ルナは筋肉魔人王の左側に移動する。
「攻撃魔法! グリーンウルフ・ショット!!」
魔法陣から緑色に光るオオカミが出現し、リシンに飛び掛かる。
「水魔法! 氷の大蛇!!」
リシンは両手をルナに向かって突き出す。
リシンの両手から青白く光る氷の大蛇が現れ、ルナに飛び掛かる。
オオカミと大蛇は正面からぶつかる。
あたり一面が眩しい光で覆われた。
オリバはルナのほうを振り向く。
ルナは無事に立っていた。
リシンの首にはルナが放ったオオカミが噛みついている。
「危ないっ! ルナ!!」
オリバはとっさにルナに飛びつき、ルナを抱きしめる。
オリバの背後から猛火が迫ってくる。
ロイシンの放った火魔法だ。
オリバはルナを抱きしめながら、背中で猛火を受ける。
背中が焼けただれる。
「……くっ! だが……残るはロイシン、貴様だけだ!!」
オリバは痛む背中を我慢して、ロイシンのほうを振り向く。
「オリバ、ありがとう……。すぐに回復魔法をかけるわ!」
ルナはオリバに回復魔法をかける。
ルナは魔法の使い過ぎで汗をかき、息もあがっている。
「貴様らがこれほどとは驚いたぞ。まさか俺の兄ふたりを倒すとはな……」
ロイシンは顎を撫でながら感心する。
不意にニヤッと笑う。
「だが、貴様らに勝ち目はない。蘇生魔法! 不死鳥の一鳴き!!」
ロイシンの前に魔法陣が現れる。
そこから業火とともに全身が燃え盛っている不死鳥が飛び出した。
不死鳥は大きな声で一鳴きし、炎となって消えていった。
「驚いた……。まさかこの俺が物理攻撃でやられるとはな」
首を垂れていたバリンが顔を起こす。
「ああ、同感だ。俺の水魔法よりもそこの小娘の森魔法のほうが強力とはな」
リシンも首を回しながら、バリンに同意する。
「本当にこの場所で戦えて良かったよ」
ロイシンがニヤッとする。
「ふ、ふん……なかなかやるわね……。でも、蘇生魔法や回復魔法は対象者が強ければ強いほど、術者は魔力を使うものよ! あんたにはもうほとんど魔力が残ってないハズよっ!」
息を切らしながらもルナは勝ち誇ったように叫ぶ。
「魔力が枯渇しそうなのは貴様のほうだろう? 俺はほらこの通り、いくらでも魔力があるぞ」
ロイシンはそう言って、両手の上に炎を発生させる。
「そんな、ばかな……」
ルナが愕然とする。
「いいか、エルフの小娘。ここは魔王城の目の前だ。魔王城から大魔王様の莫大な魔力が溢れでている。俺たち魔物は大魔王様の魔力を使って自分の魔力を回復できる。つまり、魔力は絶対に底をつかないということだ!」
愉快そうにロイシンは笑う。
「くっ……私は魔力がもうあんまり残ってないわ……。左右のふたりを同時に倒すしかない。あんたが真ん中を倒したら、私は残りふたりに同時攻撃を仕掛けるわ」
ルナがささやく。
「……分かった。でもあいつらは馬鹿じゃない。同じ手が通用するかわからないが、他に選択肢はないな……。一か八かやるしかない」
オリバは構える。
バリンもファイティングポーズをとる。
オリバはバリンに飛び掛かる。
さっきと違いバリンは攻撃してこない。
ずっと守りを固めている。
オリバはバリンの左胸めがけてパンチを打ち込む。
バリンはオリバのパンチを腕で防御する。
バリンの腕が折れるが、致命傷ではない。
「火魔法! 灼熱の炎!!」
ロイシンがオリバに向かって魔法を放つ。
「オリバ、危ない! 防御魔法! 大樹の防御壁!!」
ルナが唱える。
大樹が地面から現れ、オリバを守る。
灼熱の炎は大樹に直撃し、大樹は燃え盛る。
「かかったな! 水魔法! アイス・ハンド!!」
リシンが大地に手をつける。
大地から氷の手が無数に湧き出し、オリバの足を掴む。
オリバは次々と掴みかかってくる氷の手を殴って砕く。
その隙に筋肉魔人王はオリバを追い越し、ルナの目の前に躍りでた。
「――しまった! ルナ、逃げろ!!」
オリバはルナの隣に行こうとする。
しかし、リシンは魔法を唱え続け、無数の氷の手がオリバの移動を邪魔する。
ロイシンはルナに灼熱の炎を浴びせる。
ルナは防御魔法でなんとか防ぐ。
バリンが右腕を空高く上げ、ルナめがけてその拳を振り下ろした。
間に合わない――
オリバはルナのもとに走りながらそう悟る。
オリバでさえもダメージを受けるバリンの拳。
ルナが受ければ絶命は避けられない。
バリンの拳が地面まで到達する。
地面は真っ二つに割れ、周囲は砂ぼこりで包まれた。
〇わかったこと〇
オリバの腹筋 = トウモロコシみたいにつぶつぶ




