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第5話 ようこそ聖女様

 見上げた男の顔に戦慄する。


 無理無理無理無理無理無理!!


 優しい眼差しなのに、大量の毛虫が全身を這いまわっているような悪寒が走るのは何なの!?


 知らず、身体が震えだす。

 口の中が乾き、喉がひりつく。


「ご、ごめ……さ……ぃ」


 声を絞りだそうとするが、言葉にならない。

 微笑をたたえていた男の口角が、僅かにつり上がった。


「やっと出会えたね。彼女は、聖女だ。鑑定をしてくれないか」


 隣にいたエルフの女性は驚きを隠せないようだが、素直に指示に従う。


「――ッ、間違いありません。でも、神託はなかったはず……」


 あまりにも恐怖すると、涙も出てこない。

 先ほどまで口論していたクレアとジルも近づいてきた。

 おかしいな。こんなはずじゃなかったのに。

 セレストさんに申し訳ないなぁ……

 帰れなかったらどうしよう……母さん、ごめん。

 

 周囲の喧騒も遠くに聞こえる。

 意識が暗転する前に、クレアと目が合った。

 クレアは、僅かに目を見張る。

 

 そして

 

 僕は


 意識を手放した。 


 


 簡素なベッドだが寝心地はなかなか良い。

 清潔なシーツからは、お日様の香りがする。

 気持ち良いなぁ。このままずっと寝ていたいや。


 不意に思い出す。

 勇者との遭遇。聖女として見つかったこと。


「――ッ!!」


 跳ね起き、ベッドの上で蹲る。

 シーツを握りしめ、声を押し殺した。


「う、ぁ……っ」


 再び、身体が震えだす。

 

 そして、そっと誰かに抱きしめられた。

 

「落ち着いて。大丈夫だから」


 気が動転して、訳がわからないが、心地よい声。

 繰り返し「大丈夫よ」と声を掛けられ、背中をぽんぽんとされる。

 少し落ち着いたところで、涙が溢れる。


「うっ、ぐ、ふぇぇ……うぅぅぅぇぇ」


 女性の下腹部に顔を押し付け、咽び泣いた。


 

 

 あ゛ああぁぁぁああぁぁ!! 恥ずかしすぎて死にたい!?


 暫く泣いて状況を理解しはじめた頭は、寧ろ理解することを拒む。

 

 聖女バレしたことは、この際、もういいんだ。

 別に死にはしないと思うし、頃合いを見て逃げることもできる。

 何が問題かって?今も背中をぽんぽんしているのが妹だってことだよ!

 どうするのこれ。もうちょっとこのままでいたい気もするけど、妹だよ?

 名残惜しいけど身体を離し、顔を上げる。

 

「ク……お姉ちゃん、ありがとう」


 だめだ、大切な何かを失った気がする!いやぁああああああっ!!

 耳まで真っ赤にして、プルプルと震えて俯く。

 頭に手を載せられ、撫でられた。


「ごめんね、怖かったよね。急に聖女なんて言われて」


「教会を通じて、もう王都まで貴方のことは伝わっているわ」


「あなたみたいな子を巻き込んでしまうなんて……私が、守るから」


 真剣なクレアの表情を見て、不謹慎にもちょっと笑いそうになった。

 だって、そうじゃないか。

 僕は、何をしに来た?

 妹が心配で、居ても立っても居られなくて。

 こんなところまで来たお兄ちゃんなんだぞ。

 

 だから、僕も守るよ。勇者パーティの聖女として。

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