第4話 慢心した幼女
「おじさん、りんごひとつください!」
「おっ、元気の良い嬢ちゃんだな。親御さんはどうしたんだい?」
「ママはね、おうちでおるすばんしているの。ママにりんごたべてもらいたくて、かいにきたの!」
僕の中に眠る幼女パワーを呼び覚ます。
瞳を潤ませて健気な印象を与えるのも良いけど、満面の笑顔で気丈さを演出するもの良いよね。
「嬢ちゃん……まいどあり。一つおまけしておくから、嬢ちゃんも食べな」
「ありがとう、おじさん!」
とんだ下種幼女である。
勇者パーティがいるか半信半疑だったけど、本当にいるらしい。
勇者が泊っているらしい宿屋も、果物屋のおじさんが教えてくれた。
リンゴをひと齧りする。芳醇な香りと、爽やかな酸味が口いっぱいに広がる。美味しい。
残りは、セレストさんのお土産にしよう。
リンゴを咀嚼しつつ、歩きながら考える。
勇者は各地で問題を起こしているはずなのだが、驚くほど噂が浸透していない。
王国の権力だけではなく、勇者自身の世渡りの上手さもあるのかな。
お近づきになりたい人ではないけど。
目的の宿屋の前で、男女の口論が繰り広げられていた。
「クレア、あまり勇者に気を許すな。婚約者としての自覚を持て」
「ちょと待って、ジル。貴方が何を言っているのかわからないわ」
「アイツが、この街で何人女を連れ込んだと思っている?抱きつかせたりするな」
「あ、あれは戦闘中に私を守ろうとしただけじゃない!」
こんな人目のあるところで何やってんのジル!?
ジルの不安もわかるけどさ。
デートしたりして、二人の時間を過ごしていないのかな。
もっとお互いの気持ちを確かめ合おうよ。
お兄ちゃん的には妹の肩を持ちたいよ。
ドンッ
「いたっ」
人通りの多い道端て立ち竦んでいたのは不味かった。
隣を通り過ぎた人と肩がぶつかり、転倒してしまう。
手に持っていたリンゴが宙を舞った。
「お嬢さん、怪我はないかい?」
思わず差し出された手を掴んだ。
男にしては、綺麗な手だな。まじまじと見てしまう。
優しく引き上げられ、立ち上がる。
男の手には、先ほど投げ出されたリンゴが握られていた。
男の顔を見て___時が止まった気がした。
ゆ、勇者だぁあああああああああああああああああ!!
◇ ◇ ◇
side:ハヤト
子どもが転んだ。顔面に飛んできた物体を掴み取る……リンゴ?
危ないなぁ、これが当たっていたら親に責任を取らせるぞ。
「お嬢さん、怪我はないかい?」
小さな紅葉のような手だ。もちもちしている。
結構かわいい幼女だな。俺は断じてロリコンじゃないぞ?将来はきっと美人になると確信した。
……いや、まて。この光景……なるほど、憶えのあるシーンだ。
起きるはずのイベントが起きたり起きなかったりするが、似たような世界なんだとは識っていた。
まさか、二年越しに加入イベントが発生するとは思いもしなかったがな。




