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エピローグ

 勇者の失踪と聖女の裏切りが王国を震撼させた。

 ただでさえ不安定な国内情勢に、王国民の不満は今にも爆発しそうになっていた。

 魔族と争っていられる余裕がなくなり、最低限の兵を残し、勇者パーティは王都に帰還した。


 勇者が失踪したことにより、兼ねてより議論されていた【勇者召喚】に対する批判が再燃する。

 ハヤトが死んだことで、【欺瞞】の影響が消えた。各地で行った非道が発覚したことも起因となる。

 聖女は魔族と繋がっていたことが露呈したことにより、王都の教会に幽閉された。

 勇者と聖女が欠けた勇者パーティは事実上、解散した。


 クレアは療養を名目に、屋敷に引き篭るようになる。それに伴い、勇者との不貞を理由に、ジルはクレアとの婚約を破棄した。

 エルフのエルミーニアは【欺瞞】が解除された際、酷く錯乱した。人族と魔族に対して中立を守るエルフの里が彼女に課していたのは、勇者の監視と資質を見極めることだった。エルフは人族との交流を絶つ決断を下した。

 アンナも情勢の不安定さから帰郷を認められ、有事の際の武力として温存されることになった。風の噂によると、婚約者と結ばれ、子作りに勤しんでいるらしい。

 

 王族に対する信頼は失墜し、内乱の機運が高まり始めた。

 幽閉されている聖女の処分も王国民により望まれていた。

 教会の関係者以外に訪れる者のいない地下の一室に、ひさしぶりの来客が訪れた。


「リリス、久しいな」


「ジル、さん」


 顔を上げた聖女は、淀んだ瞳をジルに向けた。

 ろくに食事もとれていないのだろうか。以前よりもやつれた様子だ。


「リリスに聞きたいことがある」


「……何ですか?」


「リリスは、今でも私たちの仲間か?」


「そうだと思っています」


「魔族は信頼に値するか?」


「…………」


「…………」


「ジルさん、少し私の話しを聞いてもらえませんか?」


「構わないが……」


「剣聖レオをご存じですか?」

 

「ああ、もちろんだ。私も世話になった」


「彼は魔族に殺されたのではなく、部下に殺されました。あの日、ドラゴンに襲われ、辛くも生き延びた先で気が緩み、死ぬことになった。どうしてドラゴンがいたのか、どうして部下に殺されたのか。誰か黒幕がいるのではと思っていました。でも、そうではなかった。あとで知ったのは、ただ不運にもドラゴンの縄張りを犯し、都合が良かったから暗殺に踏み切った部下がいただけ。真実なんてそんなものでした」


「…………」


「魔族は信頼できるかという問いに対して、僕は明確な答えを持ち合わせていません。でも、少なくとも、魔王様と魔族領にいる母さんは大好きです。これじゃ駄目ですか?」


「いや、必要な情報は得られた」


「そうですか」


「だからこそ、頼みたいことがある」


「はい」


「剣聖レオ、もう一度、人族のために死んでくれないか?」


 レオはにっこりと笑う。


「それが、クレアのためになるなら」


 数日後、ジルはクーデターを起こした。

 王族に連なる者を処刑し、裏切りの聖女リリスを魔女として断罪した。

 国王となったジルは【勇者召喚】の術式を葬り去り、魔王との和解を図った。英雄に頼らない国造りで、のちに賢王と呼ばれるようになる。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇


 side:クレア

 

 


 満月が煌々と輝く夜、クレアは自室で枕に顔を埋めていた。

 

 何もしたくない。何も考えたくない。

 全てを失って、道が見えなくなってしまった。

 私はこの先どうなるのか。剣聖として剣を振るう気力はない。

 伯爵令嬢としての務めも、王族となったジルに婚約破棄をされた今では貰い手が見つからないかもしれない。

 利用価値のなくなった私に、お父様は興味を示さない。

 勇者様との思い出は、もう良くわからない。

 好きだったのかも自信が持てない。でも、依存していた自覚はある。

 勇者パーティの皆は、自分の道を歩き始めている。ブランディーヌ王女様とリリスは処刑されたけど。

 リリスが処刑された光景は、今でも鮮明に脳裏に焼きついている。

 民衆に罵倒され、石を投げつけられても笑っていた。火炙りにされ、黒く炭化した塊だけが残った。

 もう戻らないリリスと過ごした日々を思い出し、涙を流した。

 

 

 カタッ



「――ッ、誰!?」 

 

 枕元を探り、剣を掴もうしたが、空を掴んだだけだった。

 あ……、そうか、もう手元に置いていなかったんだ。

 駄目だ、私。抵抗する気もなくなる。


 部屋の暗がりから浮かび上がったのは、二つの影。

 小柄な影が、こちらに歩み寄る。

 黒い外套に身を包み、深く被ったフードと同色の仮面……レナト!?

 彼、いや彼女は……


「こんばんは」


 仮面の隙間からくぐもった声がした。


「………」


「迎えに来たよ、クレア」


 発せられた声音は酷く懐かしい響きを感じさせる。


「母さんも待っているよ」


「お兄ちゃんっ!!」


「あ、ちょっと、あんまり大きな声を出されると困る……」


 私は小柄な身体に膝をつき抱き着いた。

 衝撃でフードが捲れ、仮面が落ちる。


「ごめんね、遅くなった」

 

「ううん、いいの」


 リリスが困った顔で笑っていた。

 触れ合う身体からリリスの体温を感じて、涙が溢れてきた。

 どうして生きているのか疑問しかないけど、今は素直に嬉しい。


「それじゃあ行こうか」

 

「えっと、どこに?」


「もちろん、魔族領に」


「…………」


「あ、心配しなくても良いよ。ジルの許可は貰っているから」


「えっ?」


「後顧の憂いは断った、安心して行ってくれ……だってさ」


「ジル……」


 ジルは昔も今も変わらず想っていてくれたんだね。一緒に歩む未来もあったのに私は……

 

「そろそろ行きましょう」


 もう一つの影が近づいて来た。こちらは仮面をしていなかった。


「ぶ、ブランディーヌ王女様!?」


「その名前は捨てたわ。ブランと呼んでね」


「王族を処刑するって聞いたから、その前に眷属にしちゃった」

 

 え? どういうこと!?

 驚愕の内容に固まっていると、ブランに急かされた。


「いつまで抱き合っているのかしら?」


「あはは…そうだね。行こう、クレア」


 身体を離したリリスにブランが寄り添うように立った。


「…ブランさん、近くないですか?」


「私を連れ去る婚約者様ですから」


 見たこともない笑顔でブランは微笑み、リリスの頬をつつく。


「責任、取ってくれますよね?」


「ふぇぇ!?」


 わたわたしているリリスをブランが抱き上げ、頬ずりをし始めた。


「お可愛いですわ~」


「ひやぁぁ!?」


 ああ、もう! 目の前でいちゃつくな!!


「もうっ、お兄ちゃん!」


 翌朝、剣聖クレアが姿を消したと報告を受けたジルは、不敵に笑っていた。

 

 

 

 斯くして、人族は、勇者、聖女、剣聖を未来永劫、失うことになる。

 魔族は良き隣人として人族を見守り、ときには調停者として現れるようになった。






 勇者に婚約者が寝取られる話を読み漁った反動で、当事者ではなく第三者が阻止ないし〝ざまぁ〟する展開を無性に読みたくて自分で投稿しました。当事者ほど熱意が生まれないはずの立場なので、無理やり何とかするしかないかなと。現実では、第三者が直接なにかすることは無いと思います。近しい人でも、今後の問題を一緒に考えながら助言する程度でしょうか。社会的な問題を非難したくなりますが、恋は盲目とも言います。真っ向から否定するような忠告は受け入れがたいですよね。最後は自己責任です。一体なんの後書きなんでしょうね、これ。それはともかく、物語を始めて書いたのですが、登場人物が独り歩きする感覚が何となくわかった気がしました。属性を盛りすぎたのか、TS幼女転生の主人公が怖いです。前世の経験を上乗せできたので、強靭なメンタルなのに無意識に不安定になる幼さが相まってサイコパスな感じになりました。ぅゎょぅι゛ょっょぃ


 物語として成り立っているのかすら甚だ疑問ですが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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