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第22話 勇者の末路

 まだ夜が明けていない。宿から飛び出した俺は、どこに向かうでもなく走っていた。 

 込み上げる吐き気を堪え切れず、路地裏で蹲り、吐いた。 


「うげっ……おぇぇ」

 

 胃液と血の味がする。

 

 気がつくと、組み伏せた聖女が肉塊になっていた。

 肉の感触は鮮烈な記憶として残っている。

 この世の快楽を濃縮したかのような感覚が未だにこびりついていた。

 

「なんだよ、アレ。酷いハニートラップだ」


 背後に人が立つ気配がした。 


「大丈夫ですか、勇者様?」


「エルミーニア……?」


 聞き覚えのある声と月の光を背負ったシルエットはエルフのそれだ。


「勇者様……君は、やりすぎたね」


「なっ…」


 彼女は何を言っている? 先ほどのことがバレたのか?


「君は識らなかったんだね。この世界では、勇者よりも聖女の方が女神様に愛されているんだよ?」

 

 不穏な空気を感じ取り、ふらふらと立ち上がる。


「もう、君は主人公じゃない」


 紡がれる言葉に、頭の中で警鐘が鳴り響く。


「ゲームオーバーだ、勇者ハヤト」


 こいつはヤバい! 間に合うか!?

 右手に力を込め、亜空間から聖剣を呼び出す。

 

 

 ドスッ

 

 

 聖剣が勇者の胸から生えた。 

 

「ぐがっ」


「それ、私の剣だよ?」


 チクショウ…ありえねぇ……

 こんな終わり方かよ。ほんと、クソゲーだ……

 

 霞む視界でエルミーニアの形をしたナニカを睨みつける。

 ソレは何の興味も関心も示さない無感動な目で俺を見つめているだけだった。

 

 そんな、目で…お、俺は……――


 勇者の足元を中心に闇が広がり、身体が沈んでいく。

 闇から無数の腕が生え、奈落に引きずり込む。

 勇者の目はもう何も映さない。

 

「時間があればもっと苦しめてあげたんだけどね、残念だ」


 完全に闇に呑まれたあとには、何の変哲もない路地裏の暗がりが広がっていた。


「勇者…、セレスト様?」


「はじめまして、かな? ブランディーヌ王女様」


 声のする方に振り返ったエルミーニア。いや、エルミーニアに憑依したセレストが答えた。


「本当は異世界から勇者が召喚された時点で介入するべきだった。でもね、勇者の役割を彼に奪われていたから手を出せなかったんだ」


「セレスト様は、勇者ではない?」


「今の私は女神様の使徒みたいなもの。近場に巫女がいて助かったよ」


「セレスト様は、王国にはお帰りになられないのですか?」


「ごめんね、帰るつもりはないよ」


「そうですか……」


「あとのことはお願いね」


「……わかりました」


 憑依が解け、意識のないエルミーニアをブランディーヌは抱きとめた。

 今回の件は隠し通せるようなものではない。

 王国に報告する内容に頭を悩ませながら、後処理に奔走することになる。

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[一言] やったやったゴミが死んだ
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