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第19話 蚊帳の外

 勇者とクレアが仲睦まじそうに歩いている。

 女遊びが激しかった勇者は、今ではクレアにかかりきりになった。

 表情の豊かな彼女の顔を見ていると、胸が締めつけられるような痛みを覚える。

 そんな光景を少し離れた場所で見続けた。


 不意に、浮遊感を感じた。


「リーリースーちゃんっ」


「…………」


「そこは、ひぅ!? とか言って欲しいな」


「ごめんなさい」


「重症ね……」


 アンナさんに背後から抱き上げられていた。

 そういえば、アレンさんとは順調なのかな。


「あれから手紙、返ってきました?」


「うん、届いてるよ」


「良かったです」


「もうっ、私のことは良いのよ。アレンとは上手くいってるし」


 穏やかな表情で笑うアンナさんは幸せそうだ。


「リリスちゃん、クレアちゃんを盗られて寂しい?」


「はい……」


「私のときは、しつこいぐらい離れなかったじゃない」


「勇者様が側にいるので……」


「そうだね」


「あの場所は、ジルさんじゃ駄目だったのかな?」

 

「彼は一歩引いた場所から見守っているからね。立場もあるし、どうしても好意が伝わりにくいかな」


「そうですよね」


 貴族としての振舞いや責務を優先するのは、王国では正しい在り方だ。

 やっぱり、なりふり構わず行動をすることはできないのかな。


「アンナさんの目から見て、勇者様はどんな人ですか?」


「んー、魅了のこともあるし、少し偏見も入るけど良い?」


「はい」


「今の私はもう、勇者様のことは好きじゃない。アレンもいるしね」


「…………」


「勇者様は、誰に対しても優しい。仲間としてなら、付き合いやすい相手だと思うよ。でも、一歩踏み込んだときに、温度差を感じるかもしれない。だって、誰に対しても同じだから」


「そんな人を、どうして好きになるの?」


「なんだろうね。勇者様ってすごく良く周りを見ているんだよ。困っている人は直ぐに助けるし、落ち込んでいるときは欲しい言葉をくれたりする。そんな彼だから、あのときの私は好きになったんだと思う。自分を見てくれているってわかったから」


「…………」


「納得いかないって顔してるね」


「……だって、アンナさん寂しそうな顔してたじゃないですか」


「あはは……、どうしてもね。勇者様を慕う女性は多いし、私を見てくれなくなるんじゃないかって怖かったからね。今にして思えば、依存していたなって」


「そうですか……」


 寂しそうな目で勇者様とクレアを見つめるリリスに、アンナは思う。

 この子は、どんなに辛くても、最後まで誰にも頼らないかもしれない。

 少し、勇者様と似たようなところがあるよね。

 多くの人が彼や彼女を心配しているけど、本人は気がつかない。

 いや、伝わっているのに、考慮に入れない歪さ。

 だから、目が離せなくなるんだよ。遠くに行ってしまいそうで。

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