第16話 揺さぶられる感情
魔族襲撃による喧騒から少し離れた街外れ。美女と幼女は相対していた。
幼女は美女に詰め寄り、ぽかぽか殴る。
「もうもうもうっ! リサさんはズルいですっ!」
「ごめんね~、リリスちゃん正常な状態じゃなかったし」
「むぅむぅむぅっ!」
恨めしそうに表情で涙を潤ませている。少し内股気味だ。
「逃げられたなら、もっと早く逃げてくださいっ!」
「勇者の顔をよく見ておきたくてね。興奮しちゃった」
「心配したんですよっ!」
「ごめん、ごめん」
頭を撫でられ誤魔化される。ちょろい。
「それにしても、どうしてこの街に来たんですか?」
「んー、ちょっとね。いつもの街がなくなっちゃって」
「なくなった?」
「そうよ」
「ほ、滅ぼしたんですか?」
「少なくとも、魔族はやっていないわね」
魔族がやっていないって……人族が自分で街を?
「きな臭いよね。だから、情報収集のついでにこの街に来たのよ」
「どうして街の人に手を出したの?私たちの耳にも入ったよ?」
「私がこの街に来たのは、今日よ?」
別件だったの?それなら他の魔族がこの街に?
「私はこのまま魔族領に帰るけど、リリスちゃんはどうする?」
「宿に戻らないと、みんな心配するので…」
「気をつけてね。私たちもリリスちゃんを心配しているわ」
「ありがとう。リサさん」
夢魔を見送り、気配を消して宿に戻った。
まだ、捕物騒ぎは続いていたが、いつの間にか眠りについていた。
朝、目が覚めると、勇者が枕元に立っていた。
「んぅ?」
「やあ、おはよう」
「ひぅ!?」
声に出して叫ばなかったことを褒めて欲しい。
「うなされていたのかい?涙の跡があるよ」
いや、現在進行形で悪夢を見ていますよ?涙も今すぐ出そうだ。
「リリス……君は、一人で悩んでいたんだね」
クレアも部屋にいたことを今更、気がついた。
沈痛な面持ちで涙を浮かべていた。
「僕たちを信じて、頼って欲しいんだ」
「え……なに、を?」
思考が空転する。
「安心してほしい。君のお母さんとお兄さんは、勇者として必ず助けるから」
勇者が嗤う。
「わ、私には、もっと早く教えて欲しかった……っ」
静かに泣いてたクレアが猛然と駆け寄り、両肩を掴み激しく揺さぶる。
「お兄ちゃんは生きているの!? お母さんは無事なの!? ねぇ! 教えてよっ!!」
「クレアっ!」
勇者がクレアを制止する。
クレアは制止を振り切り、リリスを抱きしめた。
「ねぇ、どうして答えてくれないの? 私は、頼りないの……?」
リリスは何も答えない。理解が追いついていない。
「私、あなたの、お姉ちゃん、なんだよね? もっと、頼ってよ……っ」
◇ ◇ ◇
side:ハヤト
リリスを抱きしめ咽び泣くクレアの姿を見て、勇者は満足していた。
強引にでもイベントを進めれば【欺瞞】でどうとでもなるな。
生きていて嬉しいか? 置いて行かれて悲しいか? 頼りにされなくて悔しいか?
仮初の希望に縋りつき、裏切られて絶望したら助けてやるよ。
堕ちろ。もっと、堕ちろ。聖女を巻き込み堕ちて行った先が、お前の未来だよ。




