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第14話 次なる獲物

 記憶が曖昧だった。気がついたら、アンナさんの膝の上だった。

 ちょっと不満そうな顔をしたアレンさんもいたけど、気にしないことにした。

 憶えていることは、何か、とてつもなく悍ましいナニカを見てしまったことだけ。

 

 村の入り口で別れの挨拶を交わしていた。

 アンナさんとアレンさんは最後まで抱き合い、何か囁き合っていた。

 

「アンナさん、良かったですね」


「ありがとう。リリスちゃんにすっごく助けられちゃった」


「えへへ」


「ふふっ」


 どうすれば人族と魔族の争いが終わるのだろうか。遠征に向かう馬車の中、ぼうっと景色を眺めていた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇


 side:クレア




 リリス成分が足りない。前はあんなに「お姉ちゃん、お姉ちゃん」言いながら抱きついて来たのに。

 戦闘のときも呼吸ぴったりで、あの子と一緒に戦っていると安心感がある。

 気がつくと勇者パーティの皆に可愛がられていたのよね。あ、ジルはちょっと苦手そうかな? 子どもの扱いが苦手だし。

 そういえば、アンナの雰囲気が変わった。いや、戻ったと言うべきなのかな。アンナが勇者様の身の回りの世話を始めてから、ちょっと距離を感じていた。何があったのか詳しいことは知らないけど、どうやら婚約者の彼と仲直りすることができたようだ。勇者様の世話はエルミーニア様に任せるようになって、私とは以前のような親しい間柄になった。

 アンナとリリスも仲が良いのよね。アンナの婚約者に宛てた手紙を、二人でうんうん言いながら考えていたのは微笑ましかった。


「クレアお姉ちゃーん」


 少し離れた場所からリリスが呼んでいる。隣にいるのは、勇者様?

 

「どうしたの?」


 リリスの下に駆け寄った。


「これから勇者様と食事に行くの」


 縋るような目で見つめてくる。この子、本当に勇者様が苦手よね。

 人見知りという訳でもないのに、何故か勇者様の前では萎縮してしまっている。

 

「私もご一緒しても良いですか?」


 私は勇者様に顔を向けた。

 

「ああ、もちろんだ」


 勇者様は笑みを浮かべた。


 ジルは勇者様に気をつけろと言うけど、そんなに悪い人でもないと思う。

 あからさまに避けるのは仲間としても不味い。リリスもいるし、これぐらいなら大丈夫かな。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇


 side:ジル

 

 

 

 クレアは婚約者だ。クラルティ公爵家の嫡男の婚約者として相応しい家柄と資質を持っていたのがクレアだった。

 現当主であるアズナヴール伯爵は王国で騎士団長を努める人物だが、妻と息子に比べると凡庸だと言わざるをえない。聖女を娶ったが、多くの妾を囲い、当の聖女は遠ざけていた。国のためにと幼い息子を戦場に送り出す反面、王族と軋轢を生みかねない公爵家との婚約を熱望していた姿を、分不相応な野心家だと揶揄する者は多い。そのおかげで剣聖レオが生まれ、私もクレアと婚約できたのだが。

 政略結婚でも、私はクレアと婚約できて良かったと思っている。彼女は私を家柄ではなく、私自身を見てくれる。彼女の兄である剣聖レオも私を年相応の子どもとして扱ってくれた。剣聖レオが戦死し、聖女エステルが行方不明になったとき、クレアは酷く落ち込んでいた。私だけしか側にいなかった。私が彼女を守らなければならない。だから私は魔術の修練に明け暮れた。剣を持った彼女の隣に立ちたかったのだ。

 成人の儀でクレアが剣聖、私が賢者に選ばれたときは女神に感謝した。当初、私は勇者ハヤトが人族の希望を背負うに値する器だと思っていた。女癖は悪いが、英雄色を好むという言葉もある。噂にも耳を貸さなかった。だが、婚約者がいた弓姫アンナに手を出したことで認識が変わった。同様に、クレアに対する態度も気になりはじめた。勇者の行動は私を逆なでする。

 聖女が加入してからのクレアは、聖女を良く気にかけている。面倒見の良い彼女だから仕方がない。だが、最近、勇者と聖女とクレアが三人で行動している姿を見かけるようになった。嫉妬してしまうのは、心が狭いのだろうか。

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