第11話 触れ合う心
「アレンさん、ここに座ってください」
片手でアレンの腕を引き、もう片手で地面をぽふぽふと叩いた。
上目遣いで瞳を潤ませる。
「お、おう」
腰を降ろし、アレンは胡坐をかいた。リリスは素早く、胡坐をかいたアレンの上に、ちょこんと座った。
「あ? なにやって……」
「撫でてください」
「頭、撫でてください」
アンナに目配せするが、苦笑を浮かべられた。
「これでいいか?」
優しく撫でた。アンナもそんな様子を見ながら、アレンの隣に腰を降ろした。
「アンナさんも撫でて良いですよ?」
わっしゃわっしゃ撫でつけられる。痛い。
暫くもみくちゃしされながら時間が過ぎた。
「アンナさん」
「ええ、わかっているわ」
アンナは、アレンに正対するように座り直した。
「アレン、あなたに謝りたくて……」
「勇者のことか?」
「――ッ」
僅かに沈黙が訪れる。それでも、会話を途切れさせる訳にはいかない。
「そ、それも、そう、なんだけど……手紙を返さなかったことを謝りたいの」
「勇者のことが好き、なんだろ?」
「…………」
「知っていたよ」
「…………」
「はじめは忙しいのかなと思っていた。でも、一年ぐらい前からは、手紙が返って来なくなった。村に来ても、勇者と一緒にいて、会えなかったんだ。なぁ、アンナは俺の婚約者で良いのか?」
「わ、私は……」
「お前が本当に勇者が好きで、結婚したいなら――」
「アレンさん!!」
リリスが叫ぶ。
「アレンさん、アンナさんの話しを聞いてあげてください」
アレンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「アレンさん、【魅了】っていう能力を知っていますか?」
「【魅了】……?」
「はい、【魅了】です。サキュバスとかが使ったりする、あれです」
「それって……っ」
「アンナさんは、勇者に【魅了】を使われ――」
「――ッくそがぁあああああああああああああああああああああああああっ!!」
激昂したアレンが吠える。リリスを脇に退け、猛然と立ち上がった。
「ま、待ってください! アレンさん!!」
アレンの足にしがみつく。
「お願いです! アンナさんの話しを!!」
「放せぇぇえええええええええっ!!」
リリスを乱暴に振り払おうとする。意地でも放すものか!
「アレンっ!!」
アンナが立ち上がり、アレンの前に立ち塞がる。
「私っ、は、アレンのことが好きなの! どうしようもなく好きなの! でも、わからないの……っ」
アンナは涙を流しながら想いを伝えようとする。
「俺も、わからねぇよ……でも、それ以上に悔しいんだよ。お前が苦しんでいたことを知らなかったことが……」
「…………」
「俺、お前が村に帰って来てくれて嬉しかったよ。もう一緒に暮らせないと、しても、無事、だった……こと、がっ」
「私は……村に帰って、来たくなかった。どんな顔してあなたに会えば良いのか、わからなかった、から」
「なあ、俺がいたら、迷惑か?」
「そんなことないっ! 私もあなたとまた会えて、嬉しい」
「アンナ……っ」
アレンはアンナを強く抱きしめた。
「うぅ……ぁ……っ……はなれ、たく、ないよぉ……」
「ごめんな、アンナ。側にいてやれなくて……」
二人分の嗚咽を聴きながら、リリスは寝ころんだ。
夜も更けた歓迎の宴に、聖女は遅れて顔を出した。
「あれ? アンナはどうしたんだい?」
「まだ体調が悪いみたいなので家まで送りました」
「そうか……それなら仕方ないね。まだ数日この村にいるしね」
勇者が目を細め、嗤った。




