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風の精霊の愛し子は王子に見染められ人の心を知る  作者: 冬野月子
風の章

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06

風の森はルキウスが知るどの森とも違い、ひどく静かだった。

時折光の玉が現れてはルキウスの周りを飛び交い、また去っていく。

———闇雲に歩いても無駄だと分かっていたが、手掛かりすらない中をただ進むしか出来なかった。

ルキウスは立ち止まると辺りを見渡した。


「…アリア!」

ルキウスは声を張り上げた。

「何処にいる?アリア———」

けれど声はすぐに木々に吸い込まれていった。





目を覚ますと深い闇に覆われた中で、自分の髪だけが淡く発光しているのが見えた。

「……夜?」

アリアの声に光の玉が集まってきた。

「…夜明けまでどれくらいあるの?」


『もう少しだよ』

『王子は迷子なの』

「そんな……」


アリアは耳を澄ました。

風が運ぶ森の音を一つも漏らさないよう意識を集中させる。


「…ルキウス———」


遠くに人間の足音を感じた。




「…くそっ」

見つけた泉で喉を潤すと、ルキウスは腰を下ろし息を吐いた。

「時間が…」

———このまま朝が来たら…。

悪い考えに流れそうになり頭を振る。


サラマンダーの光は森を明るく照らし出していたが、アリアはおろか生き物の姿一つ見えなかった。

———あの時の森もこんなに静かだったろうか。

朧な記憶を辿るが、覚えているのは、ただ金色の色彩を持った人の姿だけだった。

美しい顔と歌声を持った———


「歌……」

ふと少し前に王宮で聞いた歌が頭をよぎる。

あれは音ではなかったが———ルキウスの耳には歌に聞こえ、その歌に惹かれるままにさまよった先にアリアがいたのだ。


「アリアの歌……」

ルキウスは立ち上がった。


「アリア!歌ってくれ!」

空に向かってルキウスは叫んだ。

「もう一度君の歌声を聞かせてくれ———!」




アリアはハッとして顔を上げた。


「ルキウス…」

確かにルキウスの声が聞こえた。


(もう一度君の歌声を聞かせてくれ)


「歌…私の……」

声の聞こえた方を向くと、アリアは瞳を閉じた。




夜の闇から溶け出したようにそっと———やがてはっきりとそれは聞こえた。

風のように森の中を吹き抜ける、美しい歌声。


「アリア」

さわさわと落ち着かないようにいくつもの光の玉が木々の間から現れた。


「…向こうか!」

歌声の聞こえてくる方向を見定めるとルキウスは走りだした。




それは幻想的な光景だった。


まるで蜘蛛の巣のように木々の枝に絡みついた金色の髪が淡い光を放っている。

無数の小さな光が周囲を飛び交う中———捕らえられた蝶のようにその中心で彼女は目を閉じて歌っていた。


「アリア」


開かれた黄金色の大きな瞳がルキウスの姿を捉えた。


「見つけた」

ルキウスはアリアの前に膝をついた。

両手を伸ばし、包み込むように頬を撫でると瞳を覗き込む。


「アリア———私の光」

ルキウスは紅い唇に自分のそれを重ねた。



一瞬アリアの髪が強く輝くと次の瞬間には光は消え、木々に絡みついていた髪も消えていた。


「色が戻ったな」

ルキウスは藍色の瞳を覗き込んだ。

「金色のアリアも綺麗だけれど、こっちの方が好きかな」

「…ルキウス……」

「良かった」

ルキウスはアリアを抱きしめた。



『あーあ、見つけたか』

風が吹くと共に聞こえた声に、ルキウスはアリアを抱く腕に力を込めた。


「シルフ…アリアは返してもらう」

『返すんじゃない。預けるんだよ』

二人の前に立ったシルフは腕を組んだ。

『君がアリアを不幸にする事があればすぐ取り返すから』

「…そんな事はしない」

『アリア。王宮の生活が嫌になったらいつでも森に戻ってきていいんだからね』

「———ええ」

アリアは微笑んだ。

「嫌にならなくても、逢いにくるわ。お祭の時や…シルフに逢いたくなった時に」



『約束だよ。僕の大事な妹アリア』

強く吹いた風に思わず閉じた目を開けると、二人は精霊の森の入り口に立っていた。






広場は大勢の人々の熱気に包まれていた。

祭のクライマックスと———今年特別に参加した王子と、彼と婚約予定の領主の娘を見るために例年よりもその数は多かった。


広場に建てられた塔のバルコニーに現れた、眉目好い王子とその隣に寄り添って立つ、花冠を被った美しいアリアの姿に感嘆の声が群衆の間から漏れる。



ガーランド伯爵が手を高く掲げた。

「風の森に感謝を。精霊達との永き絆と友好を、我らは誓おう———」

声に反応するように風が広場を吹き渡る。


広場中に飾られた花々が一斉に舞い上がった。

色とりどりの花びらが空を染め上げていく様はまるで夢を見ているようだった。



「…すごいな」

ルキウスは思わず声をもらした。

「シルフの力よ」

ルキウスと視線を合わせ、アリアは微笑んだ。

「来年も見にくる?」

「———ああ、来よう」

アリアの肩を抱いて答えると、ルキウスは再び空へと視線を送った。



歓声が響き渡る中、やがて花びらは高く舞い、風の森へと流れていった。

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