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風の精霊の愛し子は王子に見染められ人の心を知る  作者: 冬野月子
水の章

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13/25

03

「こちらが最近入荷したものになります」

店主はそう言うと小さな箱を恭しく差し出した。

中には乳白色の輝きを持つ、丸い粒が入っていた。


「まあ、立派な珠ね」

「この大きさでこれほどの輝きと厚みがあるものは滅多に採れません」

「…これは宝石なの?」

エイダが箱の中身を見つめる傍から覗き込んでアリアは尋ねた。


「これは真珠といって、貝から採れる海の宝石ですよお嬢様」

店主が説明した。

「貝の中にこれが入っているの?」

「ごく稀にですがね。遠くの海でしか採れない貴重なものなので、この国ではこの港でしか入らない事になっているのですよ」

「珊瑚と並んでマクファーソン領の大切な資金源よ。他の宝石にはない輝きがあるから王都の貴族達にも人気があるのよ」

「珊瑚?」

「それも海の中で採れるの。赤くて綺麗なのよ」

「珊瑚もいいものが入荷しております。お持ちいたしましょう」

そう言うと店主は立ち上がった。



アリアはエイダと共に、社会勉強を兼ねた領地の視察で港町の近くにある宝石店を訪れていた。

「こちらは傷や色ムラもほとんどなく色も濃い。最高級品です」

店主が持ってきた珊瑚の枝は黒味を帯びた深い赤色で、ルキウスの髪を思い出させた。


「アリアは真珠と珊瑚、どちらが好きかしら」

「私は…赤いのがいいわ」

「じゃあこの珊瑚でネックレスとイヤリングを作りましょう。私はこちらの真珠で指輪を仕立てるわ」

「かしこまりました。それでは職人を連れて参りますので」


「社交界で特産品を身に付けて宣伝する事は領主の妻の務めなのよ」

店主が出でいくとエイダはアリアにそっと言った。

「だからあなたも王宮で沢山身につけてね」

「…はい」

エイダの言葉を真剣な表情で聞いてアリアは頷いた。




「さて、次はどこに行きましょうか」

二人は店の外に出た。

「何か欲しいものはある?」

「……ルキウス様に、お土産が欲しいの」

「あら、それはいいわね」

伺うようにアリアが答えると、エイダは笑みで返した。

「きっと殿下は今頃アリアに逢えなくて寂しい思いをしているでしょうね」


王都を離れて十日ほど過ぎていた。


毎日のように町へ出たり、ウンディーネに会いに行ったりと忙しく過ごしていたけれど、日々を重ねる事にルキウスの事を思い出す事が増えていった。

特に一人でいる時に、ふいにルキウスの声や匂い、自分を抱きしめる腕の強さや温度が思い出されると、胸の奥が苦しくなるのだ。

ウンディーネは『それが恋なのよ』と笑って言っていたが、———ならばルキウスはいつもこういう苦しさを感じているのだろうか。


———ルキウス様に会えばこの感覚も収まるのかしら。

次の店へと向かう馬車の中で、アリアはそっとため息をついた。





夕刻になり戻ると屋敷は慌しい気配に満ちていた。


「奥様!よかったお戻りに———」

「何かあったの?」

珍しく焦った様子のメイド長にエイダは眉をひそめた。

「実は先ほど…」


「アリア!」

ふいにアリアの視界が見覚えのある赤い色に染まった。



「……ルキウス様…?」

「アリア!会いたかった———」

ルキウスは強くアリアを抱きしめると自分の頬をすり寄せた。

「…どうしてここに……」


「申し訳ありません」

ルキウスの後ろからブライアンが気の毒そうな顔を見せた。

「殿下がどうしてもアリア様に会いたいと…」


「戻ってくるまで待てなかった」

アリアを解放すると、その顔を覗き込み嬉しそうにルキウスは笑顔を見せた。

「元気そうで良かった」



「せめて先触れを頂ければこちらも受け入れる準備が出来たのですけどね」

ウィリアムが苦笑しながら現れた。

「ああ、本当にすまない。殿下が一刻も早くと譲らなくて」


「もてなしとかは一切いらないぞ」

悪びれる様子もなくルキウスが言った。

「アリアさえいれば十分だ」

「そういう訳にもまいりません。部屋の準備さえまだ…」

「ではしばらくアリアの部屋にいるよ」

ルキウスはそう言うとアリアの背中に手を添えた。

「ここでの話を聞かせてくれる?」




「ずいぶん屋敷が賑やかになったね」

遠巻きに様子を見ていたクレイグがルキウスとアリアの背中を見送りながら言った。

「殿下の花嫁選びは難航していたと聞いてたけど。あれなら安心だね」


「そんな他人事みたいに言っていていいのか、クレイグ」

「え?」

「叔父上がお前の結婚相手を決めたと言っていたぞ」

ウィリアムの言葉にクレイグは目を見開いた。


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