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風の精霊の愛し子は王子に見染められ人の心を知る  作者: 冬野月子
火の章

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09

庭園の奥にあるその樹は大人二人でも抱えきれないほどの太い幹を持っていた。

「立派な樹…」

『ここに城が建つ前からあるからな』


アリアは樹の幹に手を当てた。

目を閉じると意識を集中させる。


『アリア歌うの?』

『アリアの歌?』

吸い寄せられるようにいくつもの光の玉が集まってくる。


アリアの身体が光を帯びた。

風もないのに金色の髪がゆらりと動く。



開かれた口から風が流れはじめた。

風は幹を伝い上昇し枝葉を揺らすと、その風に身を委ねるように樹の周りを光の玉が舞う。


それは人間には聞こえない歌だった。

風に乗って月の昇ってきた方———東へと流れていく。



やがて風が止むと光も消え、庭園は元の静けさを取り戻した。


『アリアの歌気持ちいい』

『もっと歌って』

『歌ってアリア』



「アリア!」


振り返るとルキウスが立っていた。

「ルキウス様…」

「どうしてこんな所に」

「あ…ええと…」


『目が冴えてしまったから散歩に来たんだ』

サラマンダーが代わりに答えた。

「こんな薄着で?また熱を出すよ」

やや怒ったような口調でそう言うと、ルキウスは自分の上着を脱ぎアリアの肩にかけた。


「ルキウス様はどうしてここへ…」

「何か聞こえたような、呼ばれたような気がしたんだ」

そのままアリアの肩を抱き、引き寄せるとルキウスはサラマンダーを見上げた。


「サラマンダー。アリアと親しくし過ぎじゃないのか」

明らかに不快な表情で睨みつける。

「昼間だって…アリアの事抱いていたし」

『アリアを護るのが役目だからな』

「こんな時間にこんな所に連れ出すのが?」

「ルキウス様、これは私が…」

「護りが必要なら私が護る。行きたい所があれば私が連れて行く」

ルキウスはアリアを抱き上げた。


『ルキウス』

「付いてくるな」

そう言い放つとルキウスはサラマンダーに背を向け歩き出した。





「———ごめん」

初めて会った時に連れてきたベンチへとアリアを下ろすと、ルキウスは自分も隣へ腰を下ろした。


「ルキウス様?」

「君に負担をかけないって…気をつけるって言ったばかりなのに」

アリアに寄りかかるように、その肩に顔を埋める。

「サラマンダーでも…アリアに触れているのを見るのは嫌だ。誰にも触らせたくない」


ルキウスの体温が伝わってくる。

温かさと共に、彼の苦しさも伝わってくるようだった。

アリアは胸の奥から何かが湧き上がってくるような感覚を覚えた。


「———サラマンダーは、私には兄様のような存在です」

アリアはルキウスの手に自分の手を重ねた。

「ルキウス様は……ルキウス様に触れられると、何だか不思議な感じがします」

「不思議?」

「くすぐったいような…心の奥が温かくなるような…」

「———私は、アリアに触れる度に苦しくなる」

重ねられた手を取り、指を絡めるように握りしめる。

「もっと触れたくて…仕方がない」


息がかかるほどにアリアに顔を近づけると、濡れたように光る藍色の瞳を覗き込む。

「……キスしていい?」

小さく頷いたアリアの頬を空いた掌で包み込むと、そっと———まるで壊れ物に触れるように唇を重ねた。



「———やっぱり、もっと触れたくなるな」


口元に笑みを浮かべると、ルキウスは赤く染まった耳元に口づけを落とした。


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