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ミツオ・チャンネル  作者: 森茂
Chapter 5 決断
32/34

五十嵐ミツオ

 アンテナを伸ばす。限界まで伸びきったアンテナを更に、樹木のように太く長く成長させていく。先が放射状に枝分かれして拡がっていき、ヘラジカの角のようになる。ギリギリまでアンテナに溜め込んだ膨大なエネルギーを、電撃的にテレビへ流し込む。

 熱した油を注ぎ込まれたかのように、頭の中が煮えくり返る。耳から蒸気が噴き出し、目玉が蒸発して意識が吹き飛ぶ。足元がアスファルトから草地に変わる。左を見ると、七人の自分がうな垂れて座っているのが見えた。

 ミツオの時間跳躍は、現在の物質を未来にコピーし、それと同時に現在の物質を消去する流れで行われる。自動的に消えてしまうはずの現在の物質を無理矢理引き留める事で、実質的な分身を生み出すことができた。

 ミツオは、ゆっくりと立ち上がった。他のミツオ達もほとんど同じタイミングで立ち上がる。

「うちの娘に」

「うちの娘に」

「うちの娘に」

「うちの娘に」

「うちの娘に」

「うちの娘に」

「うちの娘に」

「うちの娘に」

 八人のミツオの声が重なり、響き渡る。

「手を出すな!」

「手を出すな!」

「手を出すな!」

「手を出すな!」

「手を出すな!」

「手を出すな!」

「手を出すな!」

「手を出すな!」

 八人のミツオが、アヤネ様親衛隊八人に跳びかかった。ただでさえ衰弱している体に、分身能力使用で疲労が蓄積したミツオ達は、朦朧とする意識で必死に走った。親衛隊から反撃を受け、あるミツオは殴られ、あるミツオは蹴られたが、それで良かった。攻撃を受けつつ相手の体の一部を掴んだミツオ達は、相手を時間跳躍させてこの場から消し、自分自身も消えていった。

 親衛隊が全員いなくなり、ミツオも八人目のミツオ以外全員消えた。ミツオは膝から崩れ落ち、両肘を地面に突いた。全力で走った後の犬のように、荒い呼吸になって胸が波打つ。顔を上げてノゾミとリサを見ると、二人の足元を白い煙が這っていた。ミツオは反射的に逃げようとしたが、全く体が動かなかった。白い煙がミツオの足元にも流れてきて、手足の痺れが始まった。

「ったくよー、親衛隊八人そろってこのザマかよ。情けねぇな」

 眼鏡をかけ、顎が出ている緑髪の男が、ポケットに手を入れて現れた。ジーンズの裾からドライアイスのように白い煙が湧き出ている。

「まあ、オレも人の事は言えないけどな。先程は時間跳躍の旅をプレゼントしてくれてドウモアリガトウ。あ、あんたにとったら昨日の話か」

 男が、ノゾミの服の襟を掴んで持ち上げた。リサがノゾミを渡すまいと抵抗したが、体が痺れているようで簡単にノゾミを奪われた。男はバタフライナイフを取り出して、ノゾミの三つ編みを片方切り落とした。もう片方の三つ編みを掴み、ノゾミの喉元にナイフを当てる。

「時間跳躍をして逃げたらコイツを殺す。オレに抵抗しようとしても殺す。まあ、体が痺れて動けないだろうけどな。黙ってコトワリ能力が切れるまでじっとしてろ。卑怯っぽくて好きじゃないけど、お前への対抗策としてはこれがベストだよな」

 日が暮れはじめ、西の空が淡いピンク色に染まっていく。アスファルト上で燻っていた炎が、溶けるように燃え尽きていく。骨組みだけになったバスが地面に落とすジャングルジムのような影が、少しずつ伸びていく。

 男が現れてから一分経過し、ミツオはゆっくりと体を起こした。ノゾミに向かい、痺れる手で右拳をアゴに当て、開いた右手で左胸と右肩を押さえる。

「……何だ今のは?」

 ミツオは男の問いかけに答えない。

「答えろ」

 男がナイフでノゾミの残った三つ編みを切り落とそうとしたが、ナイフが三つ編みに触れたところで動きが止まった。

「もう大丈夫、だ」

 九人目のミツオが、男の両手首を後ろから掴んでいた。

 思いきり力を込めて握る。骨の軋む音が聞こえ、男はノゾミの三つ編みを放してナイフを落とした。手話をした方のミツオは、CGで編集されたように一瞬で消えた。

 ミツオは、白い煙が迫ってきた時に時間跳躍をして九人目になっていた。その後、男に気づかれないように大回りで西へ移動し、時間跳躍をして男の真後ろに跳んでいた。

 ミツオは男の右手首を掴んだまま腕を振りあげた。ひゃわっと声をあげて男の体が宙に舞う。ミツオはバレーのスパイクを打つように、全力で男をアスファルトに叩きつけた。大きくバウンドしてから、陸に揚げられたタコのようにグニャリと男が横たわる。アスファルトにヒビが入り、男は全身がピクピクと痙攣している。しばらくは動けないだろう。

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