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ミツオ・チャンネル  作者: 森茂
Chapter 5 決断
30/34

奥村タカシ

 奥村タカシは、五條さんが作ってくれたみたらし団子を、心躍らせながら頬張った。

 五條さんに呼ばれて来たダイニングキッチン。五條さんは席に着いたタカシに、みたらし団子と熱い日本茶を出してくれた。キッチンに入る時、青山ノゾミが入れ違いで出て行った。

「どうでした?」

「別に。ただの女の子よ。チャンネル能力を発動させているわけでもないし」

 五條さんは、青山ノゾミにコトワリ能力を発現させた状態で会いたがったが、皆で説得して止めた。五條さんがインプリンティングなんぞにかかるとは思えないが、万一の事態を考えての事だ。

 テーブルを挟んだ斜め前の席に、五條さんが座っている。頬杖をついている五條さん。タカシは、幸福と緊張がない交ぜになった感情に支配された。

 五條さんからオーラが出ているように感じるが、それは錯覚だと五條さんは言う。

 誰でも、眉間にシワを寄せて腕を組んでいたら怒っているように見えるし、笑顔で飛び跳ねていたら喜んでいるように見える。

 五條さんは、眉の角度や相手との距離やそれらを動かすタイミングを、一度、一ミリメートル、一秒単位でコントロールして、表情や仕草の変化を相手に感じさせないまま、自分の感情の演技を相手に伝えるらしい。五條さんは何もしていないのに場の空気が変わったように感じて、それがオーラだと相手は錯覚するそうだ。

「バレてるわよ」

「はい?」

「奥村君が西村ちゃんに頼まれてスパイしてる事、もうバレてる」

 団子の味が分からなくなった。粘土を食べているようだ。遠近感が狂い、テーブルの向こうの五條さんがとても遠くにいるように感じる。唇が震えて声が出ない。いつかバレるかもしれない、とは思っていたが、五條さんから直接言われるとは思っていなかった。

「こっちからのスパイもいたの」

 西村が組織した救出部隊の初期メンバーから、五條共同体のスパイが入っていたらしい。救出部隊を泳がせて、離反者を炙り出してから一網打尽にする予定だったが、五十嵐ミツオと青山ノゾミが救出作戦に参加する事になったので、二人をさらう事も目的に加わったそうだ。宝緋自治体の活動と戦力を削ぎ落とせる。

「まあ、時間跳躍の男の子の拉致は失敗したみたいだけどね」

 五條さんが席を立ち、テーブルに指を這わせながら窓際へ進んだ。

「今晩、逮捕状が出されて奥村君は逮捕される事になるわ。東門の吉川君に事づけてあるから、今なら抜けだせる。あと、刷り込みの女の子は今日の四時から六時まで一階の会議室にいるから、西村ちゃんに教えてあげてね。時間跳躍君がいたら簡単に助けだせるでしょ」

 窓際に立ち、外を眺めている五條さんの横顔が見える。逃がしてくれようとしているのは理解できるのだが、五條さんから見放されたような気持ちになり、タカシは絶望に侵された。

 震える声で、何とか言葉を絞り出す。

「一つだけ、一つだけ信じてください。自分は、一部の信者による非人道的な教化に対して疑問を持っただけであって、五條さんを裏切るような気持ちは、決して、決して」

「どうでもいい」

 五條さんの熱を帯びた声がタカシの全身を貫き、反射的にタカシの背筋が伸びた。

「奥村君は誰に言われる事無く、むしろ私達を敵にまわしてでも、やらなきゃいけないと思った事をやったんでしょ? 自分で考え、決断し、行動した。それは、とてもとても素晴らしい事なのよ。正しいとか間違ってるとかはどうでもいいの」

 五條さんの凛とした瞳に捉えられ、タカシはその瞳に吸い込まれていった。五條さんの体の一部になったような気がして、恐ろしいほどの充足感に満たされる。一部信者の暴走に疑問を持ったのは本当だが、内通者となった主な理由は、西村と深い関係になりたい、という下心だった。これで五條さんの下を離れなければならない。タカシは自分の浅はかな行動を心から後悔した。

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