此岸の際にて
ヤバイ
俺だって理解できなかった。
いきなり峰岸はもう助からないだとか地獄行きだとか……何が何だかさっぱりだ。
「助けられないのか?何か手はないのか?」
よくわからないが……俺は少女に助けを求めた。だってこの目の前の後輩を助けたいという思いは間違いじゃないはずだろ?
「貴方、適当な考えで適当に私と話してない?」
少女の目はいつにも増して鋭く冷たい。俺の胸に冷たい塊が落ちてきた様な気持ち悪い感触。不安感。
「神様とか信じてる?地獄や天国はあると思う?この世界に人を超えた存在が認知されず、しかし確かに存在すると思う?」
俺は答えなかった。
そんなの、わからない……俺は神様も仏様も見たことがないし……科学でわからないことはないと思って生きていた。ほんの数日前までそうだ。
たぶん、この国の多くの人間は深く考えることなく生きている。
それは悪いことか?俺にはまるで見当もつかない。が……悪いことではないと思っていた。
それが当たり前だった。
「あるわ。この世界にもそういったものが。表がある様に、裏がある。最もあなたにとってはこっちが表でしょうけど」
「じゃあなんだ?お前はこっちの世界じゃない……そんな世界の住人なのか?」
「簡単に説明しただけだから、そうであるしそうではないって感じ。でもそれでいいわぁ。その考え方で」
たまげた。こんなことがあるか?今までいたこの世界の常識が塵となって崩れ去っていく感じだ。俺の考えの及ばない領域……夢じゃないだろうな。
「先輩……どうなってるんすか?さっきから肩が痛いし、頭もぼんやりするっす……」
あ!峰岸のこと忘れてた……
峰岸の方に視線を向ける。悪いことをしたと思った。少女が見えないこいつからしたら俺は虚空に話しかけるやばい奴だからな……拉致監禁に思われてるかも……
しかし、そんな考えは甘かった。
最も大きな、大変な事態が起きていた。
「み、峰岸?大丈夫か?」
峰岸は頭を抱えて震えていた。歯をガチガチと鳴らし、指は頭に食い込もうとしている。
俺にもわかる。只事じゃない……
俺は縋る様に少女へ向き直った。
「どうしたんだ!?峰岸が変だ!どうしちまったんだ!?」
「言ったでしょ。手遅れだって。恨みが振り切れたのよ。恨みごとも恨まれごとも。仕方ないわ。ただ、もうこちらの世界にはいられない」
少女は無表情に淡々と言った。
俺の思考は停止寸前だ。何が起きている?わからない!ただ峰岸がおかしくて、少女は助けてくれなくて…俺はどうすればいい?
峰岸は呻き声をあげている。取り憑いていた骸骨から黒い霧みたいなものが現れ峰岸を包み込んだ。まるで骸骨が峰岸を抱え込んだ様に見えた。
それはとてもこの世のものとは思えなかった。
俺はなにもできなかった。
ギリギリまで何もできない性格をなんとかしなければならないとは思っている。