人を呪わば穴二つ
スズムシは、前足にある鼓膜で音を聞いてます。
「え、なんすか、これ」
洋館に入った俺と峰岸。少女の部屋は3階にあるので、そこまでの道のりを歩む。そして到着後すぐに銀の泥人形――ベルダンが迎え入れてくれた。
峰岸は、その動く人形にめちゃめちゃ驚いていた。
俺が来た時もこんなリアクションをとったほうがよかったのだろうか。いや、あの時は体が動かなかったけど。
「いらっしゃい。彼が峰岸ね」
部屋中央、やや大きめの椅子に少女は座していた。俺が来た時と同様だ。ベルダンは、彼女の後ろに着く。少女が、峰岸に手をかざす。峰岸はうっとうめき声をあげたかと思うと、直立不動のまま動かなくなった。
「うん、じゃあ森山。あなたは帰ってよろしい」
「へ?」
少女は、俺に対してもう用済みとばかりに手を振る。まあ確かにそうだ。これは峰岸の「恨み」事なんだから。一体彼女が何をするのかについては興味があったけど、これ以上のことはしないほうがいいのだろう。
「そうか、わかった。それじゃあ俺はこれで帰るかな。峰岸、あとは頑張れよ」
「ちょ、森山さん。帰っちゃうんですか! 置いてかないでくださいよ! 俺、なぜか身体が動かないんすよ!なんすかこれ!金縛りってやつですか!」
「うーん、まあそんなとこじゃないか? 俺もよく知らん。詳しくはそこの女の子に聞いてくれ」
「女の子ってどの子ですか! さっきから森山さん変すよ! 誰もいないのに、誰かとしゃべってるみたいだったし。この洋館は何なんですか!」
「お前、見えてないのか?」
どうやら峰岸には少女が目に映っていないようだった。少女をみると、少し悲しい表情をしていた。
「私が見えてないのね。ということは、手遅れ、か」
「おい、手遅れってなんだ」
「手遅れは手遅れよ。彼、もう神様に見放されてるわ。私はいわば神の代理人。救える者を救うだけの者。それが見えないのなら、もう救えないわ」
見て、と彼女は言う。次の瞬間、峰岸の周りに黒いものがまとわりついてるのが見えた。どろどろと流れてはいるが、決して峰岸から離れない。煙はだんだんと骸骨に代わり、やがてうめき声を発し始めた。
「これは何なんだよ」
「悪鬼。悪霊ともいうわね。彼の魂は既に落とされているの。恨みのあまり、誰かにそれをぶつけてしまったのね。そして返ってきた」
少女は、峰岸にとりつく骸骨を指さす。その骸骨は峰岸の肩に重くのしかかっていた。
思い出す。そういえば峰岸は、最近肩が重いと言ってたことを。この骸骨がずっと乗っていたからなのか。
「峰岸。お前いつから肩が重いんだ」
「なんすか急に。……2週間程前ですよ」
「なら2週間前に、元クラスメイトと会ったか?」
「え、なんで森山さんがそれを? ええ、会いましたよ。それがどうしたんですか?」
「おそらくそれね。そこできっと恨みを受けた。なにか恨まれることでもしたんでしょうね。取り返しのつかないくらいの」
「……」
「彼は死後、まちがいなく地獄行きでしょうね」
ベルダンは、ずっと少女のうしろに立ってます。今日は一度も座ってないそうです。かわいそう。