愉しいティータイムは次の日に
不安は拭えやしない。生きている限り人は悩み続ける。
端的に今の状況を話そう。
ティータイム中だ。
「あらあらあら、お茶が減ってないわねぇ…紅茶はお嫌い?それともダージリンがお嫌い?いやいやストレートがお嫌いかしらぁ?」
全部ハズレだ。この状況を飲み込めていないだけで……紅茶は嫌いじゃない。もっとも紅茶などは午後の紅茶くらいしか飲んだことないが。
てか、なんで普通にティータイムしてんだ。絶対なんかされると思ったぞ……
「今、私に何かされる〜って思ってたけど何もしないので拍子抜け……とか考えてたでしょ」
少女は悪戯な笑みを俺に向けた。
心が見透かされたようでいい気はしないが、俺はもとより感情が顔に出やすいタイプだ。なるべく焦りとか不安を表に出さないように繕う。いつも無駄な努力に終わるが。
「なにもしないわ。恨みがないならしようがないし……」
少女はティーカップに口をつける。
が、熱かったようだ。慌てて口からカップを離す。少し涙目になっている。
「飲まなくて正解ね。あの子、淹れ方が下手よ。仕方ないけど」
少女はカップを置き、改めて俺を見つめた。
じーーーっと俺の目を見つめる。おれが目線を逸らしてもまだ見つめている。
「あの……なんだ?俺の顔がそんなに気になる?」
「やっぱ不思議ね。貴方って人は不思議よ」
少女はそう言うと立ち上がり俺を気にすることもなくどこか別の部屋へ行ってしまった。
ベルダンも少女について行ってしまった。
1人、部屋に残される俺。
暫くボーとして待つ。
「ご主人様より伝言です」
「うわっ!!」
そこにベルダンが急に現れる。液状のこやつはなかなか神出鬼没……おもしろい性質を持っているなぁ……
「ご主人様はお休みになられます。貴方はご自由にご帰宅下さって構いません。ただ、ご主人様は貴方を大変お気に召したようです。またお越しになる時を楽しみにしてると」
「また?また来いってか?」
「近いうちに来ると、ご主人様はおっしゃっていました」
いやいや、御免だね。平穏な生活にここは無縁。人生少しばかりはスリルを求めると言うがそれはもう今回充分堪能した。満足。
「身近で不思議なこと、信じがたいこと、そしてなんとかしたいと思うことがあったらまたお越しください。ご主人様は貴方のお力になりましょう」
洋館を後にする時、ベルダンは俺にそんな事を言った。ほぼ聞き流していたが…どうやら頭の奥には残っていたようだ。
俺は再び洋館の門をくぐる。
この世界のいままで見ることのなかった一片を知ってしまったから。
コーヒー好き。紅茶嫌い。