表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その恨み、買います  作者: 夕刻
プロローグ
3/15

お悩み相談

牛は一日に180リットルもよだれを出すんだよ。

「な、なんだよこれ!」


 水銀のような液体はどろどろと俺の目の前まで這う。そしていきなり上に向かって伸びたかと思うと、にゅるにゅるとその姿を変えた。やがてそれは人に似た何かへと姿を変えた。


「お呼びでしょうか、ご主人様」


 銀色の泥人形のようなソレは恭しく少女に礼をする。


「お呼びよ。この人ったら、恨みがないっていうんだもの。だから、ベルダン、あなたが直接読み取って頂戴」

「かしこまりました」


 ベルダンと呼ばれた銀の泥人形は俺に近づく。俺はさきほどからなぜか体が動かない。一体何だっていうんだ!

 ベルダンはその形状がぐにゃぐにゃした腕で俺の頭を掴む。


「むむむー」


 その状態でうめき声をあげながら、何かをしているようだ。俺は掴まれてる圧迫感以外は何も感じない。


「おい、何をやってるんだ!」

「静かになさいよぉ。ベルダンがあなたの恨みを見てるのよ?」


 少女に諫められ黙る。身体が動かないのだから、結局はどうしようもなかった。


「ご主人様ー。この人、ほんとに恨みないみたいですよ」


 何か終わったのか、ベルダンは俺の頭から手を引く。そして少女のすぐそばまで近寄った。


「ないことないでしょー。人間だれしも恨みがあるものよ? それに恨みがあるからこの館まで来たんじゃないの。ここはそういう場所なのよぉ?」

「ですがご主人様。この人、本当に何もないです。まるで何もしてこなかったというか。いえ、ちょっとした恨みなら各方面から来てるんですが、この人自身が恨みを抱いてないせいで、誰からも恨みが帰ってきてないんです」

「へえ。そんなことあるんだぁ」


 彼らが一体何を話しているのか理解できない。そもそもベルダンという化け物は一体なんなんだ。小瓶から出てきてしゃべったりして。そしてそれを見て平然としているこの少女もおかしい。俺は夢でも見ているのか?


「でもまあ、ここに来たんなら仕方ないしー。一応やれるだけはしないよねー。神様に怒られちゃうし」

「相談だけでもしてみるといいでそうな」


 少女は何かを決めたあと、部屋の隅にあった椅子と机を引っ張ってきた。そして自身が先ほどまで座っていた椅子も引きずって2対1の面談のような形にした。


「ささ、座ってどうぞ。ベルダン。お茶くらい出しなさいよ」

「かしこまりました」


 俺は体が動かせるようになっていた。よし、今ならここから出られるのではないか。


「あーこの部屋からは抜けれないよ。結界みたいなの張ってるしぃ。まあまあ怪しいことはしないし、すわりなって」

「そ、そうか」


 俺は渋々座る。ちょうど目の前に少女が来る形になった。


「んー、最近、悩みとかないの?」

「悩み? なんで急に」

「だってあなたが恨みが無いっていうから―。私はねー、とある事情で、人々から恨みを買っている仕事をしているの。たとえば、恨まれてるなら、その恨みを私に向けさせるとかー。恨んでいるならその恨みを私が食べるの。もちろんお金は出すわ。恨みって人類を破滅させる感情だからねー。こうして少しずつでも減らさないといけないのよー」

「はあ、大変だなお前も。ってか恨みを食べるってどういうことだ」

「ほんとよぉ。私は恨みを買って食べる。そうして生きながらえてるのよお。だから恨みがないと、私死んじゃうの」


 まあ、すぐには死なないから安心してねぇ。と彼女は告げる。俺は知らないうちにこの洋館に呼ばれたみたいだが、どうやらあまり歓迎されてないみたいだ。一体彼女たちは何者なんだろう。俺はこれから先どうなってしまうのだろう。

 そんなことを思っているうちにベルダンがお茶を運んできた。

 少女はそれを見計らうと、さらに身を乗り出した。


「さて、はじめましょ?」


 ……あんまりいい予感がしない。

ベルダンを触ってみたら、こんにゃくのような感触がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ