表裏
勇者よりかは魔王より。でも勇者になりたいんだ。
腕時計を確認する。
待ち合わせの時間はあっている。
場所もあっている。
しかし、彼女はいない。
栞外美……連絡をよこせと言ったのはそっちのはずだ。なのになんで俺はここで2時間も待たなきゃいけないんだ。
帰ろうかと思ったが帰ったところでというのもある。有限である時間を多少なりとも使ってここに来た。もう彼女に会わないという選択肢はない。
「おぉぉ!!まだいた!いやぁよかった」
ようやく待ち人が来たようだ。前回会った時とほとんど変わらない格好をしている。
「すまないすまない。とある事情で遅れてしまった。話す時間はまだあるかい?なんなら近くの喫茶にでも行こう。私が奢るからね」
俺が了承すると外美は近くの喫茶店を紹介した。よく行く店なのかと思っていたが彼女もここは初めて来る店らしい。
「ふーーおいしいコーヒーだ」
1杯450円のコーヒー。いくらお財布が潤っていても自分から飲みに行くことはしないような値段だ。一口飲んでみたがいまいちおいしいのかわからない。
「さてさて、本題にいこうか。今、美怨はどこにいる?」
「いや……それは俺も知らないんです。最近はあってなくて」
「ふーん。じゃあ見当もつかないんだ」
そういわれて俺は少し考える。
美怨はいまどこにいる?俺は本当に知らないのか……?
「君が最初に美怨とであったのはどこ?できれば案内してほしいんだけど」
「かまいませんよ」
美怨と会った場所。俺はまたあそこに行くのか。つい先日行ったばかりなのに……まるで洋館が俺を離さないようにそこに縛り付けているようだ。
心配そうな顔を見られたのか外美は悪戯な笑みを浮かべて、コーヒーカップに残っていた中身を一気に飲み干した。
俺たちは洋館の門の前にいた。
外美は興味深そうに門や中の建物を見ている。
「別に変ったところはないねーー」
外美は洋館の扉を開ける。俺も後に続いて中に入る。
埃の積った廊下を進む。
なんだろうか。前来た時と何かが違う。そんな気がする。
錆びた門も古びた屋敷も廊下についた埃に埋もれた足跡もそのまま……
何か不自然な感じがしつつも俺は美怨のいた部屋に着いた。
「へぇ、ここに彼女が」
外美は興味深そうに部屋を見回す。そして壁にある棚に足を向けた。中には様々な瓶や本が収められている。彼女はそんな棚を物色し始めた。
……前来た時、あの棚はあったか?
「おかしいな。前来た時は本当に何もなくって驚いたんだけど」
俺は思い出した。そしてわかった。違和感の正体に。
足跡だ。
先日俺がここに来た時の足跡がないじゃないか。埃の被っていない真新しい足跡が。
では俺は先日どこにいた?いや……違う。棚も美怨がいた時の物じゃない。僅かだがすべてがあの洋館とは違う。ここはどこだ?
「外美さん!ここは美怨のいたところじゃあない!」
おれは咄嗟に叫んでいた。
薄気味悪さと嫌な気持ちの悪い気配がした。とても嫌な予感だ。
「それっていったいどういう……」
彼女の目つきがかわった。
俺は彼女の目線の先、俺の背後を見るためゆっくりと振り返った。
嫌な予感は……こういう時は的中する。
固有能力とは、人間の精神的な力が具現化したものです。超能力ともいえます。
固有能力は人の思い込みの力、信じる力なのです。ですから狭義には火事場の馬鹿力や愛なんかも固有能力が発現した一例と言えます。
固有能力は様々ですが大なり小なり既存の科学を凌駕しています。