洋館の少女
他人に批判されたくないなら、
何もやらず何も言わなければいい。
しかし、それは生きていないのと同じではないか。
(エルバード・ハバード)
森山源五郎は夜勤明けの帰路で、特に理由もなくふらっと寄り道をした。その道の先には、その場に不釣り合いではないかというほどの豪華な洋館が建っている。
洋館というよりは妖館といった感じの風貌で、今にも何か出そうな雰囲気がある。もちろん誰かが住んでいる様子はない。鉄の柵でできた門が微妙に開いていた。
俺はその扉をこっそりとくぐる。
「広い館だなあ」
俺は館の中に侵入していた。誰もいないんだな。やはり洋館は無人で、ほこりやクモの巣が張り巡らされていた。一体どんな人が住んでいたのだろう。犯罪とは知りつつも、俺はあたりをやたらめったらに探った。
誰のかもわからない肖像画。豪華そうな調度品やシャンデリアというのだろう、洋館に相応しい洋灯が天井からぶら下がっていたりもした。その洋灯は電気が通っていないのかスイッチらしきものを押しても光らなかった。
館内はやたらと静か。館の敷地自体が結構広く、その敷地の外もちょっとした林が広がっており、街からの音が来ることはない。それにまだ日が昇ってから1時間程しか経っていなかった。
「なんで俺、こんなところに入ったんだろうな」
夜勤明けで少し頭が眠くなっているのだろう。特に理由もなく不法侵入するとは、俺もまだまだ若いなあ。
俺はエントランスから伸びる大階段を上った。
洋館を外から見たとき、3階の建造物のようだった。しかし大階段はカーブを描き2階までとなっている。他に上に上がる階段があるのだろう。興味が湧いた俺は階段を探しつつも、各部屋を見て回った。
部屋は1階の客室とは対照的に物置のようなものが多かった。それが意味するところは、かつて住んでいた人は身よりが少なかったことを示している。誰も住まないから、自分以外の部屋がない。おおよそそんな感じなのだろう。
そうこうするうちに上へと昇る階段が見つかった。この階段をあがればこの洋館のほとんどを見たことになる。最初にあった罪悪感は既に無く、ただただ興味だけが俺を動かした。
昇った先、一際きれいに整えられた扉を見つけた。なんだろう、あそこだけ異様な雰囲気を醸し出している。
他にも部屋はあったが、俺はその扉を開ける。
「ひっ……!」
突然視界に入ったもの驚き身体がびくっと反応してしまった。なんとそこに人が座っていたのだ。誰もいないと思っていた館に先客がいたのだ。驚かないわけがなかった。座っていたのは少女、齢10歳前後の人形のような美しい娘。この館の主を思わせる風格が漂っており、神秘的に見えた俺は自分が立ち尽くしていることにようやくと気づく。
少女は、こちらをじっと見つめる。まるで俺が来ることがわかっていたかのような佇まいだ。
その小さい口から凛とした声を発した。
「いらっしゃい。あなたが今日のお客様ね」
少女ってかわいいよね。