懐かしの場所
「天職だったのかもしれない」
「スライム一匹倒したくらいで調子にのるなよ?」
「どこのヤクザの台詞だよ!?」
オレの初勝利の余韻は、イケメンサディストによってあっさりと打ち砕かれた。
「トキ、かっこよかったぞ! 流石勇者様じゃ!」
イバラさんの可愛い笑顔に、うっかりいけない扉を開きそうになってしまった。危ない危ない。いくら百八歳と言っても、見た目は幼気な少女だ。……いや、中身も幼気な少女かもしれない。
「その調子なら大丈夫そうだな。流石に何度も二人を背負って帰るのは面倒くさいから、キリキリ働けよー」
その眩しい笑顔が憎たらしいぜ。何でモンスターはあいつを襲わないんだろう。ゲームだからか。そうか。
「ファーストシティまではそんなに離れてないからな。順調に行けば夕方には着くだろ」
「本当か!? よし! わらわもがんばるぞ!」
これは……大丈夫だろうか。
「あー、張り切りすぎて倒れないようにね」
「そんなこと……。……。き、気を付ける」
よしよし、出会った時の事を思い出してくれたようで何よりだな。
それにしても。
「なぁ、ゼン。オレこのゲームやってた時、スライムって倒せたことなかったんだけど何でだろうな?」
「は? 今更?」
張り切って先頭を歩くイバラさんに聞こえないようにゼンにこっそり耳打ちすると、心底呆れたように聞き返された。わかってるさ。浮かれてそれどころじゃなかったんだよ。
「ファーストシティとセカンドシティで売ってる武器のレベルが違うんだよ。はっきり言ってファーストシティの武器でモンスターを倒そうとする方が無謀だな。とりあえず逃げてセカンドシティを目指すのが正解だろ」
「え? マジで?」
そう言われて記憶を辿ってみると、確かにファーストシティで手に入ったのって木の棒やらゴムのパチンコやら武器と呼ぶのもおこがましいようなものだったような気がする。
「ってか一回戦ったら気づくだろ」
え? オレが進めなかったのってそういう事だったの? だってモンスターは倒すものでしょ?
そりゃファーストシティを出られないはずだわ。
「トキってこれが常識だって言われたらどんなにありえない事でも迷わず実行しそうだよな」
「失礼な! ちょっとは迷って実行するわ!」
「変わんねーよ」
すごい楽しそうに笑ってるけど、あれ? これ否定しといたほうがよかったかな?
……とりあえずゼンの言う常識には気をつけよう。
はい、着いてしまいましたファーストシティ。
ああ、懐かしいな。何か月もこの村で暮らしてたもんな。相変わらず美形しかいないな。道具屋の彼女元気かな。
「早速奴を殺……懲らしめに行くぞ、トキ!」
「今殺すって言いかけたよね?」
「まあまあ、楽しそうで何よりじゃねーか」
「お前もな」
ため息をつきつつも、軽く小躍りしだしそうなイバラさんに続く。嫌なことは後回しにしても仕方がないと確かに腹は括ったが、いざとなると心の準備が……ってかでもよく考えたら向こうはオレの事知らないんだよな? あれ? 知らないはずだよな??
オレが一人でぐるぐる考え込んでいる間に、一人先を歩いていたイバラさんが道を歩いていた女の人に元勇者の居場所を聞いたらしい。が、先ほどまでとは違い表情が強張っている。はて?
「どうしたの? 元勇者の居場所わかった?」
「ああ、わかったぞ。あの女子に聞いたんじゃが……プリンス・タイムは昨日殺害されたらしい」
「え?」
プリンス・タイムが殺害された!?
予想外の出来事に、オレとゼンは顔を見合わせた。




