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勇者は仲間を手に入れた!

 格闘すること数分、ようやくイバラさんを宥めることに成功した。

 まあ正しくは引きこもりらしいイバラさんの体力が底をついたのだが。

「その体力で隣の村まで一人で行こうとしてたとか無謀としか言いようがないよな」

「黙れ小童」

 ゼンのからかいにも力なく反論するのが精いっぱいのようだ。ホントにこの人勇者のパーティなんだろうか?

「お前そんなんじゃ仮に勇者が迎えに来てたとしても完全にただの足手まといじゃねーか」

 やっぱりゼンも同じことを思ったらしい。道端の石ころよろしく地面に突っ伏して動かないイバラさんを呆れた目で眺めている。

「き、昨日の夜からあの男を懲らしめるイメージトレーニングをしておって、気づいたら朝じゃったから」

 寝ていない、と。

「阿保か」

「うぅ……!」

 イバラさん、ゼンに責められて可哀想だとは思うけど、さすがにそれはオレもフォローできねーわ。

 ってか倒れた女の子を二人の男が囲んで見下ろしてるってこれ、周りから見れば通報案件だよな?

 そんなことが頭をよぎったオレは慌てて周りを見回すが、誰一人気にした様子はない。それはそれでどうなんだ。ゲームだからか。

「えーっと、とりあえず、オレの家に移動しない? イバラさんに話があるんだ」


「は? トキが新しい勇者?」

 大量の荷物とイバラさんを抱えて家に帰ったオレ達は、イバラさんに当たり障りのない程度に説明した。

「そう。イバラの言う通り、奴は勇者にふさわしくないと判断されたわけだ。んで、その後任としてこいつが選ばれたってわけ」

「だからイバラさんも魔王退治に協力してくれないかなって。前の勇者のことは一旦置いておいてさ」

 オレ達の突然の話についていけなかったらしく、イバラさんはぽかんとして固まっている。その気持ち、とってもよくわかるな。勇者が代わるって有りかって話だよ。ほんとに一体どういう仕組みなのか教えてほしい。

「つまり……あの男はもう勇者ではないと」

「ああ」

 ようやく頭の整理が出来たらしい。イバラさんがゆっくりと確認する。

「わらわがお仕えすべき勇者は、トキ様で……」

「いや、様とかいらないから!!」

 やめて! リアルで様付けとか何の罰ゲームだよ!?

「初対面で甚大な迷惑をかけた上に、目の前で倒れたと……」

 うん? なんかイバラさんの顔色が悪いんだけど? 大丈夫か?

「うあぁぁぁ……そんなの確実に連れて行きたくない奴ではないか……! 迷惑物件間違いなし! 何たる失態!! しかも勇者を倒すなどと……!! うおぉぉぉ……とても恥ずかしくて力になるなどとは言えぬ……!」

 さっきまで青い顔をしていたかと思えば、今度は真っ赤になって机に突っ伏して頭を抱えている。

「えっと、イバラさん、大丈夫だから顔を上げて」

「まあ確かに使えなさそうではあるがな」

「ゼン!!」

「わかっておる……どうせわらわはおちこぼれじゃ。マスコットキャラクターか愛玩動物くらいの価値しかないじゃろうて」

「いやいやそんなことないから! ってか落ち込んでると見せかけて後半ただの自分可愛い発言だよね!?」

「可愛さには自信があるぞ……」

「卑屈なのか自信家なのかがわかんねーよ……!」

「こいつはこういうやつだ」


「とにかく!!」

 オレはイバラさんと目を合わせるため、強引にその手を握った。思惑通り驚いたイバラさんは伏せていた顔を勢いよく上げてくれたので、気持ちが伝わるようにまっすぐに彼女の少し潤んだ赤い目を見つめた。

「オレはイバラさんと一緒に行きたいんだ。もちろん強制はしない。魔王を倒しに行くってことは、そんな易しい道のりじゃないと思うし、危険な目にだっていっぱい会うと思う。けど、絶対に足手まといなんかじゃない。一緒に来てくれるならすごく心強いよ。だから、もしイバラさんさえよければ一緒に来てくれないか?」

 なんてったって、オレには戦闘経験そのものがないわけだし、ゼンは戦わないって宣言してる。あいつは有言実行の男だから、どんなにオレが死にそうになってても絶対に加勢しないだろうという自信がある。

 だから! 仲間が! 欲しい!

 オレの切実な思いが伝わってくれたようで、イバラさんが真っ赤な顔で頷いてくれた。

 よっしゃぁぁぁ!!! 仲間ゲットだぜ!!!

 表向きには平静を保ちながら、内心で盛大なガッツポーズをしていると、ポンと肩を叩かれた。

「痴情の縺れには気をつけろよ?」

「何でそうなる」

 意味が解らない、と目で問いかけてみたが、ゼンは憎たらしい笑顔を返すだけだった。


「そういえば、武器見るの忘れてたな」

 それどころではなかったような気もするが、ちゃちゃっと見てくればよかった。

「あ、武器なら買っといたぞ」

「は!? いつの間に!?」

「いつの間にって、武器屋行ったじゃねーか。二度手間になるのも面倒だし、お前の武器聞いといたから適当に選んだぞ。ほら」

 そう言って少し大きめの剣を手渡された。

 いやいや、オレ達武器屋に入ろうとしたときにイバラさんにぶつかって、店の外で話した後そのまま帰って来たよな?

 実際オレは中には入ってないし。

「……ゼンってもしかして忍者とかシーフとかそっち系?」

「は? なんでだよ」

「こやつの事は深く考えると負けじゃ」

 うん、そうだな。手間が省けてラッキーとだけ思っておこう。きっと考えても無駄だ。

「えーと、じゃあいよいよ出発だな。準備はいいか?」

 確認すると、二人とも真剣な顔で頷いた。

 オレはたった一日だけだがお世話になった部屋をぐるりと見まわして、心の中でお礼と別れを告げて魔王退治へと出発した。


「うん。俺、お前らの事舐めてたわ」

「やめて!! それ以上言わないで!!!」

「まさか……」

「……」

「まさかスライム一匹倒せないなんて……ぶはっ!!! 無理!! 腹イテェ!!!」

 ベッドに横たわるオレ達の横で、ゼンはついに腹を抱えて笑い出した。

「ほんとやめたげて!! オレはまだいいけど、イバラさんが自己嫌悪で死にそうになってるから!!!」

 布団を頭までかぶった彼女は、先ほどから何も言わず小刻みに震えている。

 村を出て数十分、最初に遭遇したスライムにあっさりと倒されたオレ達は、ゼンに抱えられて先ほど別れを告げたばかりのマイホームに逆戻りしていた。

 やっぱり魔王を倒しに行くなんて不可能じゃね?

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