過去の過ち
あーあぁ。派手に転げてしまったせいで、さっき買ったばかりの荷物が見事にぶちまけられてしまった。
結構な量の買い物だったのだ。その全ての荷物を持つオレに、「大変そうだな」とゼンは有難くも労いの言葉をかけてくれた。オレが欲しかったのはその一歩先の言葉なんだけどな。
それも災いしてこんな事態に発展してしまったとオレは思うんだ。だから、めんどくせーなって顔をしてるこいつ殴ってもいいかな? まあ何だかんだ手伝ってくれてるから許してやることにしよう。別にゼンに頭が上がらないとかじゃない。
「すまない! 大丈夫か!?」
ふいに女の子の声がした。目の前の憎たらしいのに気をとられて忘れてたけど、そういえば誰かに扉を開けられたからこんなことになってるんだった。
声のした方を見ると、栗色の髪を高い位置でツインテールにした十二、三歳くらいの可愛い女の子が不安そうにこちらを見ていた。オレは断じてロリコンではないが、抱きしめて撫でまわしたいくらいの可愛さだ。
「あ、うん。大丈夫。オレの方こそ邪魔なとこに立っててごめんね? お嬢ちゃんこそ大丈夫?」
オレの言葉にホッとしたようだったが、すぐにむっとした表情になる。うん、可愛い。いじめたくなる可愛さだ。や、嘘です。だからゼン、その汚物を見るような顔止めて。
「わらわはもう立派な大人じゃ! お嬢ちゃんと呼ぶでない!」
え? なに? この子姫なの? ぶっちゃけ大人とか言うことよりそっちの方が気になるんだけど。
「そんなことよりお前ら荷物拾え。通行人の邪魔だろーが」
ゼンの言葉にハッとしてぶちまけてしまった荷物を拾う。自称大人の女の子も一緒に拾ってくれたので、大量にあった荷物も割と早く片付いた。
「ありがとう。手伝ってくれて助かったよ。あ、オレは藤堂トキ」
とりあえずロリコン疑惑をもたれないため、握手とか頭を撫でたりとかはやめとこう。ものすごくやりたいけど。
オレの名前を聞いて、女の子は一瞬何かを考えるような仕草をしたが、すぐに納得したように頷いて口を開いた。
「ああ、ゼンの同居人か。会うのは初めましてじゃな。わらわは小町イバラじゃ」
「え? ゼンの知り合い?」
「まあ同じ村に住んでるからな」
「おぬしの話もいくらか聞いておるぞ」
それにしても、一体どういう知り合いだ? ゼンは見たところオレと同じ十七、八歳くらいで、偏見かもしれないが子供好きの様には見えない。それなのに話し方とか態度とか随分親しそうだし……まさか。
「ゼンはロリコ……ボフォッ!!!」
「お前と一緒にするな」
顔面は酷い!
「これ以上イケメンになったらどう責任とってくれるんだ……!」
「安心しろ。すでにこれ以上ないほどのイケメンだ」
棒読みは許すがせめてその哀れみの表情を隠してくれ。泣くぞ。
「トキは面白いな!」
「今の流れを面白いで片づけられるイバラちゃんは将来大物になると思うな」
笑顔は可愛いけど、もうちょっと心配してほしい。
と思ってたら、笑顔が一瞬でおこになった。何故?
「まだ言うか! わらわは大人だと言っているじゃろうが!! 少なくともおぬしの五倍は生きておるわ!!!」
「へ?」
「トキ、イバラはエルフだ。こう見えて百歳を超えたババアだぞ」
「うそぉ」
「ババアではない!! まだピッチピチの百八歳じゃ!!!」
「くそババアじゃねーか」
「ええい! ヒトの基準ではかるなといつも言っておるじゃろう!!」
まじか。どう見てもただの人間の美少女じゃないか。
じゃあ仮に恋人にしたとしても法律的に引っかからないと。変態共大歓喜だな。いや、オレにそんな趣味はないよ?
「それにしても、引きこもりのイバラがこんなところにいるなんて珍しいな。どうしたんだ?」
「……」
ゼンの質問にイバラちゃん……もといイバラさんは黙り込んだ。あまり言いたくなさそうというか、言っていいものか悩んでいるというか。
……ん? 小町イバラ?? いろいろとびっくりして気づかなかったけど、よくよく考えたらそれって勇者のパーティメンバーの名前じゃん!!
そのイバラさんが武器屋から出てくるということは…………どういうことだ? 勇者はファーストシティから出てないはず……だよな??
「もしかして、いつまでも来ない勇者を迎えに行くとか?」
だって武器屋にいたってことは村の外に出るつもりなんだろうし。
けどオレの予想はハズレだったらしい。それどころかイバラさんから不穏な空気が漂いだしたので、まずいことを聞いてしまったかと身を竦めた。
「そう、勇者……勇者のぅ……そもそも勇者なんて誰が決めたのじゃろうな? あんな変態セクハラ最低男……」
「えっと……イバラさん……?」
その目に光はない。どうやら地雷を踏みぬいたようだ。やったね!
「魔王退治に出ると聞いて早数か月!! お母様の言いつけを守りこの村で待っておるというのに何時までたっても来やしない!! しかも最初の村から出た途端最弱モンスターに倒されて、それ以来村から出ずに女子にセクハラ三昧じゃと!?!? そんな男が勇者などと認められるか!!! 魔王なんてどうでもいい!!! わらわはそやつを退治しに行く!!!」
「イバラさん落ち着いて!! 勇者は退治するものじゃないから!!!」
相当ストレスが溜まっていたのだろう。怒涛の勢いで叫びながら走りだそうとするイバラさんを必死で抱き込んで止める。セクハラ? 役得? 全身から怒りを放っている相手に対してそんなこと考えてる余裕あるか!!
「ええい! 止めてくれるな!! 魔王が殺らないならわらわが殺る!!! 女子の敵は勇者に非ず!!! 最低でも不能にしてくれる!!!」
「止めてあげてぇぇぇ!!!」
悪気はなかったんだ! 女の子の扱い方がわからなさ過ぎて、モテる奴ってスキンシップ多いよな? オレ勇者だしイケるよな? っていう馬鹿な考えのもとの行動だったんだ! その行動に下心なんて一ミリくらいしかなかったんだ!
オレが必死にイバラさんを止めているってのに、何でゼンの奴我関せずって感じで離れてるんだ!?
オレが助けを求めて見つめると、ゼンの口が動いた。
じ・ご・う・じ・と・く
ああそうですね!! イバラさんに聞かれないように口の動きだけで伝えてきたからって、そこに感謝なんかしないからな!?




