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報酬の代償

 それからナビに対する認識の違いを正すべくオレ達は小一時間討論した。オレは方向音痴の人間にとっていかにナビが大切で素晴らしい相棒であるかを熱弁したはずだが、この討論は案内してもらっているはずがよく同じところをぐるぐる回らされるというあるあるを話したことにより、お前がナビの掌で踊らされていたのか、というよくわからない結論で収束した。取り敢えずナビ=下僕発言は撤回してくれたが、ゼン=ナビはやはり受け入れてはくれないらしい。


「そういえば、何すればいいかって話だったよな」

 うん、ずいぶん前にそんなことを聞いた気がする。ナビ談義に夢中になってすっかり忘れてたわ。

「簡単に言うと、Aがプレイヤーとしてやろうとしてたことと同じだ。世界をまわって仲間を集めて魔王を倒す。以上」

「なるほど。簡単なお仕事ですね」

 そりゃそうだよな。村で呑気にハーレム作りに励んでる勇者の代わりに勇者をするんだもんな。そりゃ同じだよな。

「できるわけないじゃないか……!」

 思わずorzの形になってしまった。だって、オレはファーストシティ止まりの男だぞ? セカンドシティっていう時点で難易度的にもファーストシティより上に決まってんじゃん!

「まあ落ち着け。まず、Aは元から勇者だったわけじゃない。奴が自分の仕事を全うしていたなら、平凡なモブキャラでいられたはずだ。つまり、貧乏くじを引かされた哀れな子羊ってわけだ」

 随分な言い草だが、全くもってその通りだと思う。クソ、勇者の奴、自分の仕事は自分でやれよ! 自業自得?因果応報? 何のことだ? オレはただの村人Aだ。

「ということで、村人Aには特典がある」

 特典……だと!?

「マジで!? あ! 難易度がイージーになるとか!? だってオレ普通の村人だしモンスター倒すとか無理じゃんね!」

「あー、考えようにはそうなる……のか?」

「うっそマジで!?」

 ノリとテンションで言っただけだったが、まさかの正解!?

 ゼンは首を傾げて何とも歯切れの悪い返答だが、そうなるってことはそういうことだよな!

「あー、盛り上がってるとこ悪いが、難易度は変えられない」

「うん?」

 え? そうなるって言ったよな?

「ただし、魔王を倒すべく旅に出るわけだから、当然どこにでもいるようなモブという意味の村人Aではなくなる」

「そうだな」

 おっと話の先が見えないぞ?

「そこで、Aは自分の好きな名前に変更できるという権利が発生する」

「……まさか、それが特典とか言わないよな?」

 そんなの特典じゃない。ただのオプションだ。

「んなの特典じゃねーよ。あのさ、昔のゲームで、特定の名前を付けるとある効果が発動するって裏技があっただろ? それと同じだ」

 特定の名前?

「……つまり」

 何だろう……すごく、嫌な予感がする。

「勇者と同じ名前を名乗るなら、全てのステータス二倍、経験値二倍、アイテムドロップ二倍」

「ああぁぁぁああぁぁ……!!!」

 やっぱりか!!!

「どうする? この特典は結構大きいぞ?」

 わかってる! わかってるさ!! プレイヤー時ファーストシティで挫折したオレにとって、この特典はゲームクリアのための唯一の希望かもしれない! だがしかし……!!

「ちなみに、途中変更不可だから」

 そりゃそうだよ! 勇者が突然改名しましたなんて聞いたことねーよ! 芸名じゃあるまいし!

 ……はっ! そうか!

「それって本名それにしてずっと偽名で生活するってのは……」

「認められません」

「でもオレが名乗らなければ」

「勝手にバレる」

「鬼か!」

 うーん……けど普通に普通のステータスで挑んで何とかなるもんなんだろうか? ってか勇者が戦うのはまだわかるとして村人Aって戦えるものなんだろうか? やっぱり勇者と同じ名前に……いや、実際に名乗るとなると恥ずか死ぬだろ!

「ってかこの世界ホンモノいるんだよな? 同じ名前で支障ないのか?」

 ややこしいことこの上ないと思うんだが。

「ああ。だから同じ名前にするともれなく本物と誤解されるぞ? 好感度も同期される」

「藤堂トキって言います! 気軽にトキ君って呼んでね」

 クリア絶望的? はぁん! 知ったことか!


「じゃあ名前が決まったら次は職業だな。何がいい?」

「何がいいって言われたら魔法使いとかヒーラーとかが良いんだけど」

「後方支援系の一人旅か。即死だな」

「デスヨネー」

 わかってたけど! せっかくならファンタジーな職業やってみたかったなぁ……

「ゼンが戦ってくれれば!」

「無茶言うな」

 じとーっとした目で見つめても、無理だとバッサリ断られた。絶対オレより強いのに……!

「じゃあ……無難に剣士にしとく」

「お、意外。弓矢とか拳銃とか飛び道具使いたがると思った」

 うん。オレもそっちの方がいいんだけどね?

「飛び道具って、当たる気がしないんだよね」

 生前は運動音痴ってわけじゃなかったんだけど、球技全般悲惨だったし。オレをどっちのチームに入れるかで陰で小競り合いになってたのだって知ってるんだからな? 本人の耳に入らないようにって優しさなんだろうけど、気づいたときのショックは倍なんだから隠すなら完璧に隠してほしかった。


 名前も職業もばっちり決まったところで、旅立ちの準備をすべく買い物に出ることにした。

 お金を持っているか心配だったが、旅に必要なものをそろえる程度の資金はあったので安心した。村人Aって何の仕事してたんだってゼンに聞いたら、ゲームなんだからっていう魔法の言葉で片づけられた。確かにそうなんだけど!

 家の外に出たオレを待っていたのは、たくさんの美形たち。右を向いても左を向いても美形、美形、美形。髪の色や目の色は赤青緑とカラフルなのに、それが違和感なく似合っちゃうステキな人ばかり。さすがギャルゲー。いや、分類的にはRPGだけど。

 ちなみにオレとゼンは二人とも普通に暗い茶色の髪と目だ。まあイケメン指数は天と地ほど差があるが。もしかして自分も美形になってるのかもしれないと家を出る前に鏡で顔を確認したら、生前の絶望した自分の顔とこんにちはした。そりゃあ村人Aとか呼ばれるわ。


 とりあえず状況を把握するため村人に声をかけながら歩く。うん。ここはセカンドシティですっていう子もオレより美形で涙が出そう。

 知り合いらしき人も何人かいて、さっき決めたばかりのトキという名前を当たり前のように呼んでくるところにゲームの凄さを感じるよね。血迷った名前つけなくて本当によかった。

 アイテムショップで回復アイテムを買い込んで、次は武器屋に向かう。

「あ、そういえば」

 武器屋の扉に手をかけたところでゼンが後ろで声を上げたから思わず振り返った。ら、中から勢いよく扉が開いて、その前にいたオレは哀れにも弾き飛ばされた。

「この村に仲間がいるから一人旅になることはないんだったわ。よかったな」

 そんなことより、変なところで声をかけられたせいで吹っ飛ばされたオレを心配するくらいはしてくれてもいいんじゃないかな!?

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