優しさ求ム
ハーレムを作ろうと奮闘する恥ずかしすぎる自分の分身がいるという事実と、村人Aとして魔王を倒しに行かなければいけないという絶望はしばらくオレを苛んだ。ゼンの生暖かい眼差しが辛い。
「精神的に大変そうなところ悪いが、確認させてくれ。そのプリンス・タイムとやらはAが操作していたキャラクターという認識でよかったか?」
「やめてその名前で呼ばないで勇者って呼んでお願いだから!!」
「そしてヤツはハーレムを作ることを選んだから魔王退治には行かないと」
「おっしゃる通りでございます」
オレが村人Aだからこその確認なんだろうが、悪いと思うならせめてもうちょっと聞き方を考えてほしい。オレは精神的ダメージのせいですでに瀕死状態だ。
「なるほど。じゃあプリンス・タイムが動かないということは、Aが魔王退治に行くことになるわけだ。あ、そうだ。Aって呼び方が不満って言ってたけど、王子って呼んでやろうか?」
「Aでいい! Aがいい! Aって呼んで!」
薄々わかってはいたが、ゼンは絶対にSだ。しかもドが付く方の。それでもゼンに頼るしかないオレ超可哀想!
「ちなみにそのハーレム作りは順調だったのか?」
「ねえ、絶対わかって聞いてるよね!?」
オレの答えの分かり切った質問という形の確認にゼンは笑顔のサムズアップで答えた。Aがバカじゃなかったみたいで嬉しいよってどういう意味だ。良いおもちゃ発見って顔にでかでかと書いてあるからな? オレが傷つかないと思ったら大間違いだぞ?
「さて、そろそろ話を進めたいんだがいいか?」
「誰のせいで話が進まないと……!」
「は? Aだろ?」
「いや、ゼ……はい、はいわたくしめのせいでございます」
なんでも暴力で解決しようとするの、ボク、よくないと思うな。
「勇者が使えない場合、Aが魔王退治に行かないといけないわけだが」
「デスヨネー」
うん、知ってた。ゲーム世界の話なのに魔王放置に罪悪感を感じて、ハーレム計画を実行する前に確認したから。それを見て安心してハーレム作りに専念することにしたのだが、これはその魔王退治を押し付けられた村人Aの気持ちを思い知れということだろうか。自分がされて嫌なことは人にもやっちゃいけませんっていうことか。だって村人Aがやってくれるって言ったんだもん! いや、本人の意思は聞いてないけど!
「ちなみにオレに拒否権は」
「あると思うのか?」
「デスヨネー」
一縷の望みをかけて聞いた村人Bの可能性は、ゼンの一言によって跡形もなく打ち砕かれた。
よし、気持ちを切り替えよう。人生あきらめも肝心だ。そもそもあそこでオレの人生は終わる予定だったわけだし、続きがあってラッキーくらいに思っておこう。続きがクソゲーの勇者とかいうとんでも設定だったわけだが、オレもオタクの端くれだ。リアルゲーム世界を満喫してやるぜ!
別にやけくそになっているわけではない。元々オレは生前から友人や家族が呆れるほどポジティブで大らかなのだ。能天気の考えなしの間違いだろ? とオレの頭の中の友人が言ってきたが、どちらも同じことだ、問題ない。
「それで、これからどうすればいいんだ?」
さっきまでぐずっていたオレの突然の切り替えについていけなかったらしく、ゼンがぽかんとしている。出会って今まで余裕だった男を出し抜いたような気がしてちょっと気分がいい。
ただそんな顔でもイケメンなところは納得いかない。こいつ人が一番ブサイクになるというくしゃみする瞬間さえイケメンなんじゃ……いや、それはないか。うーん、ちょっと見てみたいかも。
「死にに行く決意ができたのか?」
「言い方!!」
人の決意を何だと思っているのか! あと変なこと考えてたのがばれたのかと思ってちょっと焦ったのは内緒だ。
「冗談だ」
「何て質の悪い冗談なんだ」
確かにオレがプレイヤーだった頃は即死してたけど! 魔王どころか次の村までも辿り着ける気がしないけど!
まあでもこの目の前のイケメンなら涼しい顔でサクサククリア出来るんだろうなあ。オレが絶対に倒せなかった気持ち悪いスライムみたいなやつも楽勝そう……ってか、ん?
「そういえば、ゼンって何なんだ?」
「……質問の意味がよく分からないんだが」
「いや、確かゼンって村人Aの同居人だったよな? オレこれでも最初は一周目は魔王を倒しに行こうと思ってたから、自力じゃ無理だと思った時点で攻略サイトとかもフル活用してたわけよ。まあ結局ファーストシティから出られなかったんだけど」
ものすごい可哀想な子を見る目を向けてくるんだけど、その天才ゲーマーさんのサイトにも『このゲームを攻略するのに必要なのは百パーセントの根気と二百パーセントの運です』っていう明らかに無理だろ的なことが書いてあったからね? オレがダメな子なわけじゃないからね? ……たぶん。
「それでもファーストシティリタイアは早すぎるだろ」
「人の心を読まないで!!」
確かに掲示板見てもファーストシティで行き詰ってる人なんてほとんどいなかったけど!
「まあいいや。それで?」
「あ、うん。それで、やってはないけど、ある程度知識はあるわけよ。仲間になるキャラクターとか、イベントとか」
「切り替えはえーな」
「長所ですから!」
「そうか。俺はAと魔王を倒しに行く仲間だよ」
こいつ聞き流しやがった!
「優しさ求ム……は? パーティメンバー?」
祠堂ゼンなんてキャラクターいたか?
「いや、イベントキャラみたいなもんだ。だから戦闘に参加もしないし、ストーリーにも影響はない」
「や、イベントキャラなら戦闘に参加しないのはわかるけど、ストーリーには影響あるだろ」
「言ったろ? 『みたいなもの』なんだよ。わかりやすく言うと、初心者に操作とか仕組みとかを説明するあれだ。だから本来の勇者をプレイする奴らからしたら関係ないキャラクターってわけだ」
なるほど。っていうことは
「ナビか」
口に出したら、思いっきり頭をシバかれた。
「人を下僕みたいに言うな」
「全てのナビに謝れ」




