無慈悲な現実
「俺はプレイヤーではなかったが、このゲームは知ってるぞ」
言われてみればゼンはこんなクソゲーやりそうにないよな。オレの勝手なイメージだけど。まあある意味大変に有名なゲームだったし、もしかしたら周りにプレイヤーがいたのかもしれない。
「Aはどこまで進んでたんだ?」
「そのAって呼び方かなりビミョーなんだけど。オレはこのゲームまだ最初の方だったかな。ちなみにゼンはどの辺まで知ってる?」
「だいたい全部知ってるぜ」
「まじか」
イケメンはそんなどうでもいい知識までイケメンなのか。せめて前世がブサメンでありますように。
大分落ち着いてきた頭で、オレは今の状況を整理することにした。まず、この質素な部屋とチープなBGM、そしてゼンの台詞を踏まえると、ここがかの有名なクソゲーの世界だと非常に不本意だが納得するしかないだろう。納得したところで、どんなゲームだったかを思い出してみる。
このゲームは簡単に言うと、勇者となって魔王を倒すか、諦めて村人たちでハーレムを作るかというゲームである。これだけで十分クソゲーであることが賢明な方々には理解できると思う。一応オレもそう思った。しかしオレはハーレムという甘美な響きに逆らうことが出来なかったのだ。ハーレムは男のロマンだと思う。ちなみに対象は男でも女でもオッケーというオカマにも優しいシステムだった。オカマでないオレには全く関係のない話だが。
若干思考が逸れたが、そこまで思い出したところでふとある疑問が浮かんだ。
「この世界に勇者はいるのか?」
これは村人Aであるオレには結構重要な質問である。
そもそもハーレムを作れるという謳い文句からして、このゲームの村人たちには勇者に対する好感度から始まり、名前、容姿、性格から好みに至るまで、非常に細かく設定されていた。
そんな中、村人Aが存在する理由。
「ああ、いるよ。アホみたいな名前の勇者が」
最初に言った通り、このゲームは勇者となって魔王を倒すか、諦めてハーレムを作るかというもの。つまり、魔王というものが存在する。そして勇者がそれを倒すのを諦めた場合、それはどうなるのか? 答えは簡単。別の勇者が現れるのだ。
「けど未だにファーストシティにいるぜ」
そして勇者だった男はただの男になり、ハーレムを作って幸せに暮らしましたとさ、というグッドエンディングとなる。なんというクソゲー。
問題はその代わりの勇者。オレの記憶が確かなら、それこそが、そのあまりにも平凡すぎるキャラクターから村人Aと呼ばれ親しまれていた男だったのだ。
「プリンス・タイムって名乗ってる男だ」
絶望した。絶望した上、ネーミングセンス皆無のその恥ずかしすぎる名前をこんなところで再び聞かされるとかどんな拷問だ。オレは絶望と羞恥のダブルパンチに一人悶え苦しんでいた。そんなオレを見てきょとんとしていたゼンは、やがて理解してしまったらしい。
「まさか……」
「わかってる、皆まで言うな。後悔なら死ぬほどしてるから」
「……がんばれよ」
その心から辛そうな顔はお願いだからやめてくれ。




