導きだした答え
「サホ……ちゃん?」
オレの問いかけに、サホちゃんは笑い返すだけだった。そこには敵意は感じられない。
「君が、魔王?」
「そうじゃない」
答えたのはサホちゃんではなかった。
「ゼン……」
オレのすぐ横に立っているゼンは、怖いくらいにいつも通りだった。サホちゃんが現れた衝撃で忘れていたが、オレを扉の中に引きずり込んだのはゼンだった。
「じゃあ、まさか、お前が……」
オレの問いに、ゼンはいつものようにニヤリと笑った。
「あれ? 攻撃してこねーの?」
ゼンは面白そうにオレにそう聞いてきたが、オレは武器を取り出すことはしなかった。
ゼンと、ここにいる時点でサホちゃんも仲間なのだろう。オレは出来ることなら二人と戦いたくはない。
それに。
「戦ったところで勝てる気がしない」
そう堂々と言い切れば、ゼンとサホちゃんは揃ってポカンと口を開けた。
しばしの沈黙。
「おっ前! 諦めが良すぎるだろ!」
やがて耐え切れなくなったゼンがそう言ってけらけらと笑い始めた。今度はオレがポカンとする番だ。
「勝ち目ないから黙って殺されるって?」
「うーん、黙って、は嫌だな。せめて苦しまないようにひと思いに頼む」
「それ黙ってと変わんねーよ」
そういって再び笑い出すゼン。状況が掴めない。サホちゃん、微笑ましそうに見守ってないで助けて!
「あのな、お前がここで死んだら、誰が魔王を倒すんだ? お前は魔王を倒すためにここまで来たんだろ?」
まるで小さな子供に尋ねるように、疑いようもなく当たり前のことだというように尋ねられた内容に。
オレは頭の中でそれを反芻して、結果首を横に振った。
「違う」
「違う?」
「いや、勇者としては違わない。それが正しいんだ」
「どっちだよ」
ゼンは意味が解らないと言ったように首を傾げた。
「勇者は魔王を倒すものだ。だって勇者なんだから。けどオレは元々勇者でも何でもない。ましてやこの世界の住人になって日も浅いし、少しは馴染んだような気はするけど、そこまで思い入れがあるわけじゃない」
「だから、藤堂トキ個人としては魔王なんてどうだっていいと?」
どこかつまらなそうにそう言ったゼンに対し、オレはもう一度首を横に振った。
「そうじゃない。そこまで思い入れはないが、それなりには思い入れはある。だから出来るなら助けたいとは思う」
「さっきから言ってることが矛盾してないか?」
オレの要領を得ない話にだんだんとゼンがイライラしてきた。
「矛盾なんかしてないさ。この世界にもそれなりの思い入れがあるから助けたい。けど、それ以上にオレは、ゼン、サホちゃん、二人に対しての方が残念ながら思い入れが強いんだ」
再びポカンとしてしまったゼンに対し、サホちゃんはにこにこと嬉しそうだ。彼女にはどうやらオレの考えはお見通しだったらしい。
「だって、ゼンとはこの世界に来てからずっと一緒なんだよ? ゼンから見たら何にも考えてないように見えてたかもしれないけど、それなりに不安だったりしたわけさ。今思えば話を合わせてくれてただけなのかもしれないけど、ゲームとか前世とかこの世界の人間からしたら訳の分からないことを言ってるオレの話を理解してくれて、オレがどれだけ嬉しかったか知らないだろ? それにサホちゃんも」
そう言ってサホちゃんの方を向くと、彼女は自分に矛先が向くとは思っていなかったらしく目を丸くした。
「サホちゃんのおかげで、随分心強かったんだよ。本人には言えないけどイバラさんは頼りないし、ゼンは絶対に助けてくれなかったし。何て言うかサホちゃんに任せておけば大丈夫っていう謎の安心感があったんだよね。や、女の子に向かって言うことじゃないとは思うけど」
「いいえ、ありがとうございます。とっても嬉しいです」
そう言って笑ったサホちゃんの顔を見て、オレは今の状況がよくわからなくなった。なんでオレラスボスの部屋でラスボスサイドの人間と思われる相手とこんな和やかに談笑してるんだろう。
「ゼン様」
サホちゃんがゼンの名前を呼んだ。そう言えばゼンの反応が無いな、と思いゼンの方を見ると。
「まあいいか。合格だ」
ゼンは今まで見たことのないような嬉しそうな顔で、オレに向かってそう言った。




