最後の戦い
「なんで……」
城の最深部にやっとの思いで辿り着いたオレは、目の前の光景に思わず言葉を失った。
無事にトラさんを仲間にして、何とかソウタを置いて行くことに成功したオレ達はついに魔王が住むと言われている最後のダンジョンに辿り着いた。
そこは敵の強さもさることながら、それ以上に突然登場した謎解き要素が厄介だった。
今までそんな知力が必要な場面がなかったため気が付かなかったが、このパーティーは頭を使うことに関しては実力が底辺であることが発覚した。
「寅の方角ってどっち?」
「え? トラさんの家の方向だったらあっちじゃない?」
「月を映す鏡って何のことじゃ?」
「鏡なんて持ってきてないですー」
「? 夜に輝く……何て読むんだこれ?」
「……? とりあえずわからないところ飛ばして読んでみたらなんとなくわかるかもですよ」
ダンジョン全体が迷路のようになっており、要所要所にクイズのようなものが書かれている。それを解けば進むべき道がわかるのだろうが、残念ながら誰一人クイズが得意ではなかった。クイズ以前の問題とか言わない。ちなみにゼンは当然のように教えてはくれない。
唯一の救いはクイズがわからなくても敵が出てきたり回り道になったりトラップが発動するだけで、前に進めないわけではないところだろうか。
「サホちゃんが恋しい」
「あいつが頭がいいとは限らないだろ? まあ良さそうだが」
「ソウタ……はやっぱりいいや」
「頼ってやれよ」
恐らくこのパーティーで頭脳担当はあの二人だったのだろう。サホちゃんはオレのただの推測だが、ソウタは確実に頭は良いはずだ。医療の知識はちゃんとしてたし。ただ何故か法術の方はさっぱりだったけど。
「何事も命あってこそだと思わないか?」
謎は解けても、その代わりに死にかけるとかオレは嫌だ。そんなことを話しながら、もう何度目になるかわからない罠の発動する音を聞いた。
ダンジョンに入ってからどれくらいたったのだろう。
そろそろアイテムも底を尽きかけているが、一旦帰ろうにも帰り道がわからない。
「やっぱり無謀だったかなぁ……」
思わずそんな弱音も出るってものだ。
「トキ、あれ……」
不意にイバラさんが固い声でそう言って前方を指さしたのでそれに従って前を向くと、遥か前方にいかにもな厳つい扉が目に飛び込んできた。
え? あれって確実にヤバいやつだよね? アイテムほとんど残ってないし、体力とかもみんな結構ヤバい感じだよ? え? やっぱり無理にでも引き返すべきか?
とりあえず扉の前まで来てみたけど……うん。これは確実だよね。入りたくないな。
やっぱり一旦引き返さない? と言おうとオレはみんなの方を振り返ったんだけど。
「ついにここまで来たのじゃな。トキ、魔王なんてさっさと倒して、早くサホに会いに行こう」
イバラさん、貴女もうフラフラで今にも倒れそうなんですけど。魔王の姿見ただけで死にそうなんだけど。
「正直ちょっと怖いですけど、ウチが今生きてられるのはトキさんのおかげです。ウチもシロも、トキさんに最後までついて行きますよ」
ヒカリちゃん、だったらその命、大切にしてくれた方がお兄さん嬉しいな。
「サキが心配だ。さっさと終わらせて帰るぞ」
トラさん、歪みないですね。素敵です。
じゃなくて!! 何でラスボス前イベントみたいなの発生してるの!? 明らかに今のオレらの状態じゃ勝ち目ないよね!? 相手は魔王だよ!? 何なの? みんなバカなの??
みんなが盛り上がってるのでものすごく言いづらいけど、せっかくここまで来たのだから死にたくはない。幸いにもここにくるまでにクイズを間違えまくったため、レベルはかなり上がっているはずだ。戻るくらいなら何とかなるだろう。
オレは覚悟を決めて、みんなに向かって重い口を開いた。
「」
しかしオレの言葉は彼らに届くことはなかった。
突然背後から扉が開く音がしたかと思うと、オレはそのまま扉の中へと引きずり込まれた。
「トキ!!」
みんなが慌ててオレの後を追おうとしたが、無情にも扉はオレの目の前で閉ざされ、外の音も一切聞こえなくなってしまった。
「最悪だ……」
ここに魔王がいるであろうことも忘れて思わず頭を抱えて蹲ってしまったオレはきっと悪くないだろう。
「お待ちしておりました」
部屋の奥から声がした。
聞き覚えのある声だ。
しかし、ここで聞くはずのない声だ。
確かめたい。
知りたくない。
そんな相反する気持ちを抱えて、ゆっくりと顔を上げた。
「なんで……」
そこには、フォースシティで別れたはずのサホちゃんがいた。




