不平等交換条件
翌朝、オレ達は新たな仲間を探すべく情報収集をすることにした。
すると意外にあっさりと仲間となる人物を見つけることが出来たのだが、世の中そんなに上手くはいかないらしい。
「確かに私はタイムの伯父だ。タイムが助けを求めて来たなら、その時は共に戦ってやろうと思っていた。しかしタイムはもういない。それなのに、タイムの後を継いだという君たちを助けるとでも思ったか? 私はあくまでも、姉の忘れ形見であるあの子を助けたいと思っていたんだ。ましてやあの子を助けられなかった勇者など……悪い、今のは八つ当たりだ。忘れてくれ。とにかく私は君たちを信用できないし、協力しようとも思わない。そもそも魔王なんて、私にはどうでもいい。わかったら諦めて帰ってくれ」
元勇者の伯父で傭兵の熊田トラという動物園のような名前の男は、こちらの話こそ聞いてくれたが全く協力してくれる気はないと言う。子供なら泣いて逃げ出してしまいそうな険しい顔で一気に捲し立てられた。実際イバラさんなんか半泣きだ。
けど彼には協力してもらわなければ困る。いつものオレだったらそんなに拒否するのなら仕方がないと諦めているところだが、今回ばかりはそういうわけにはいかない。命がかかっているのだ。主にヒカリちゃんの。
「仮にも勇者を名乗っておきながら、甥御さんの事を助けられなかったのは申し訳ないと思っています。けど、魔王がどうでもいいなんて、嘘ですよね? 直接ではないにしろ彼らの命を奪った相手です。どうでもいいはずがない」
まさかオレが反論するなんて思っていなかったらしく、トラさんは一瞬驚いたような顔をした。その強面の顔と凄みを利かせた態度で大体の人間なら引き下がるんだろうが、残念ながらオレの母親の本気モードには足元にも及ばないため、オレにとっては怖くも何ともないのだ。
「オレ達が信用出来ないという気持ちはわかります。自称勇者だし、全体的に頼りないし。ただ、魔王を倒したいという思いも、トラさんに仲間になって欲しいという思いも本気です。どうやったら信用してもらえますか?」
オレの話を聞いて、トラさんは眉間に皺を寄せたまま困ったように視線を彷徨わせた。もう一息!
「お願いします! 犠牲になった人たちの為にも、これから犠牲になるかもしれない人のためにも力を貸してください!」
「いいじゃない。行ってあげなさいよ」
「サキ!」
突然割って入った女の子の声に驚いてそちらを向くと、オレとそう変わらない歳の美人さんが立っていた。誰だろう? トラさんはたぶん三十路前後と思われるから、親子にしては歳が近い。……ロリコンか?
「妹のサキだ」
オレの失礼な思考を読んだわけではないだろうが、トラさんはそう言って彼女のことを紹介してくれた。
「サキは体が弱いんだ。こいつを一人置いて行くわけにはいかない」
薄々感じてはいたが、トラさんは絶対いい人だ。そして身内を何よりも大切にしているのだろう。
「だから何度も言ってるでしょう? 確かに小さいときはよく発作を起こしてたけど最近じゃそんなことはないし、普通に生活してる分には問題ないんだって」
「そんなのわからないだろう? 今は平気でもいつまた何かあるかもしれない。お前の発作には法術も効かないし、すぐに対処しなければ大変なことになるんだぞ」
トラさんの過保護な台詞にサキちゃんは呆れたように肩を竦めた。
それにしても、なんて都合がいいんだろう。オレは思わずにやつきそうになる顔を必死で引き締めて、彼にとある提案を持ちかけた。
「本当によかったのか?」
「大丈夫です、全て計画通り……じゃなくて、どうしてもこれまでのメンバーでは攻撃の面で不安があったんです。回復ならアイテムで何とでもなりますし、正直とても助かります」
「すまない。私たちのために……サキのために残ってくれた彼の為にも、全力で力になると約束しよう」
本心半分、偽り半分。
心から感謝しているだろうトラさんに対して、オレ達は目を逸らしてお願いしますということしか出来なかった。大丈夫、彼はちゃんと医療施設で働いていたはずだし、大変危険な法術は効かないから使うなと念を押しておいたし問題ない。サキちゃんも最近は調子いいらしいし、大丈夫、大丈夫……
「こうなったらチャチャっと魔王を倒してしまって、チャチャっと帰ってきましょうね!」
「おう、そうだな」
オレの発言の真意を知らないトラさんは、力強く頷いて同意した。




