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マイナスとマイナス

「昨晩はお楽しみでしたね」

 期待に胸を膨らませていたせいで完全に寝不足なオレにゼンが楽しそうに朝の挨拶をしてきた。

 止めてくれ、オレのガラスのハートは既に崩壊寸前なんだ。

「は! まさかゼン……!?」

 サホちゃんがオレのところに来なかったということは、告白の相手はゼンだったということではないか!

「お前を喜ばすようで癪だが、俺のとこにも来てねーよ」

「ですよね!」

 オレの返事にゼンは嫌そうに顔を顰めた。まあ隣のベットで寝ていたのだから、ゼンのところに誰か来たなら気づいたはずだよな。

 ということは、結局サホちゃんは告白しなかったってことか。ほっとしたようなつまんないような……

 まあ隣のイケメンに先を越されるという最悪の結果だけは回避できたのでよかったことにしとくか。


 朝食を食べて少しのんびりした後、みんなでサホちゃんと最後の見送りのため医療施設へ向かった。

「皆さん、ありがとうございました。皆さんが帰ってくるまでには絶対に治しておきますね」

 ロビーで話すサホちゃんの顔にはもう悲しみはなかった。しかしどうにも別れがたくてその場に留まっていたのがいけなかったようだ。

「そこの方たち、申し訳ございませんが少し声を落としてもらえますか? 重症の患者さんもいらっしゃいますので」

「あ、すいません」

「あ、昨日の」

 振り返るとそこには昨日最初に声を掛けてくれた看護師の男が立っていた。


「そうだったんですね。それでそんな重症に……あ、せっかくの皆さんの時間を邪魔してすみません」

 なぜかオレたちは今、先ほど声をかけてきた男、薬丸ソウタにこれまでの経緯を説明していた。

 なんでそんなことになったかって? オレにも全くわからないんだ。きっとゲームの進行上必要なイベントだからじゃないかな。

「気にしないでください。お別れといっても一時的なもので、皆さんすぐに帰って来てくれると思いますから」

 サホちゃんが笑顔で答える。相変わらず全幅の信頼を持っているらしい。

「けど相手は魔王なんですよね……」

 そう呟くと、ソウタはそわそわとし始めた。あ、まずい。

「あの! 僕も仲間にしてもらえませんか?」

 デスヨネー!

 知ってた! 知ってたんだけど出来れば言わないで欲しかった!

「僕ヒーラーなんです」

「なるほど。じゃから医療施設で働いておったんじゃな」

 うん、そこは問題ないんだよ。

「そう言えば、このパーティーってヒーラーがいなかったんですよね」

 そうだね、普通のRPGだったらありえないよね。

「確かにソウタさんが一緒に行ってくれるっていうのなら心強いですね!」

「いや、まだまだ未熟だから、期待に応えられるかはわからないんだけど……」

 そう! そこが問題なんだよ!

 ヒーラーって基本回復役じゃん? だからヤバいなって時に回復してもらおうとするじゃん? でも彼って謙遜でも何でもなくまだ未熟らしいじゃん?


 三回に一回は呪文失敗して死ぬらしいんだよ!!


 なにそのロシアンルーレット的なの! そんなのに安心して回復役なんて任せられる訳ないじゃん!

「でも、ソウタくん今ここで働いてるんでしょ? 急にいなくなったら困るんじゃない?」

 お願いだ! 残ると言ってくれ!!

「ここの医療施設はスタッフも充実してますから、僕一人抜けたところで問題ありませんよ。けどそうですね、念のため先生に確認してみますね」

「えっ、ちょっと!」

 オレは返事も聞かずに許可をもらいに行ってしまったソウタの背中を唖然として見送ることしか出来なかった。

「諦めろ」

 うん、そうだね。人生諦めも大切だよね。

 なぜかソウタくんと一緒にわざわざ直接挨拶に来てくれた先生の顔が厄介払いができるという喜びと罪悪感で溢れているなんて気のせいだと思いたい。

 主要戦力が抜けて戦力マイナスが入るとか、ホントにこの先大丈夫なんだろうか?

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